x86 CPUは使われなくなる?GoogleがデータセンターのCPUをARMへ全面移行中
この記事の内容
- GoogleがデータセンターのCPUをx86からARM系へ全面移行するプロジェクトを進めている
- 自社開発のARMベースCPU「Axion」は、同等のx86サーバーと比較して最大65%優れた価格性能比、最大60%のエネルギー効率向上を実現
- 10万以上のアプリケーション・数億行のコードを移行する大規模作業にAIが活用されており、マルチエージェントシステムが約30%の問題を自律的に修正
- 移行作業のボトルネックはコード変換そのものではなく、ビルド設定ファイルやCI/CDの設定変更が全コミットの84%を占めることが判明
- AWSに続きGoogleも参入したことで、クラウド業界全体で「脱x86」の動きが加速している
GoogleのARM移行とは
これまでパソコンやサーバーの世界では、IntelやAMDが採用するx86アーキテクチャが主流でした。一方で、iPhone・iPad・MacなどではARMベースのCPUが採用されており、消費電力の低さとバッテリー持続時間の長さが高く評価されています。Windowsでもarm版が登場しているものの、まだ普及途上という状況です。
そのような中、Googleが自社のデータセンター——Google検索、YouTube、AI、GCPなど——を支えるCPUのアーキテクチャをx86からARMベースへ全面移行させるプロジェクトを進めているという情報が注目を集めています。
自社開発CPU「Axion」の性能
Googleが移行先として採用するのは、同社が自社設計したARMベースのCPU「Axion(アクシオン)」です。このCPUはARMの「Neoverse V2」プラットフォームを基盤としており、半導体製造の世界的リーダーであるTSMCが手がける最先端の3nmプロセスで製造されています。
製造プロセスが微細化されるほど集積度が上がり、電力効率も向上します。現在のトップクラスが3nmという水準に達しており、まさに世界最先端の技術が投入されています。
同等のx86ベースのサーバーインスタンスと比較した場合の性能は以下の通りです。
- 価格性能比:最大65%向上
- エネルギー効率:最大60%向上
数%の改善ではなく、65%という大幅な改善は非常に注目に値します。Googleのように膨大な数のCPUを運用している規模であれば、電力コストの削減効果は計り知れません。
なお、クラウドサービスを利用する一般ユーザーにとっても、例えばAWSのEC2インスタンス選択時にx86ベースとARMベースを選べる場面がありますが、特にWebフロントエンド系ではARMベースの方がコスト効率が高いケースが増えています。
10万超のアプリケーションをどう移行するか
Googleのデータセンターには10万を超えるアプリケーションが存在し、それらは数億行に及ぶコードで構成されています。これをx86からARMへ移行させるには膨大な作業が必要です。
移行のボトルネックはどこか
CPUアーキテクチャが変わるということは、命令セット(ISA: Instruction Set Architecture)が変わることを意味します。直感的にはコード自体の書き換えが最大の難所に思えますが、実際の移行作業を分析すると意外な結果が見えてきました。
LLMを活用して行われた3万8,156件のコミットを16のカテゴリーに分類したところ、以下のような内訳になりました。
- ビルド設定ファイルの変更:全体の84%
- コード自体の修正:全体の約1%
つまり、ISA移行の主な作業はコード変換そのものではなく、ビルドシステムの更新・CI/CDの設定変更・本番環境での設定修正といった周辺作業が大部分を占めていたのです。現代のコンパイラやサニタイザーツールが命令セットの差異を吸収してくれるため、コード自体の修正が少なくて済むようになっています。
AIがARM移行を支援:マルチエージェントシステムの活用
この大規模移行において、Googleはマルチエージェントシステムを活用したAI支援を取り入れています。
過去に人間が主導して行った修正コミットを245件選び出し、それを元に戻した上で「AIが同じ修正を再現できるか」を検証したところ、約30%の問題を自律的に修正することに成功しました。
この30%という数字をどう評価するかは見方が分かれますが、設定ファイルの変更など比較的機械的に処理できる作業が多い移行作業において、AIが一定の自動化に貢献していることは確かです。
また、Googleはさらに残る7万のアプリケーションの移行に向けて「Cogniteport(コグニポート)」というシステムを投入する計画があるとされています。
クラウド業界全体での「脱x86」の加速
今回のGoogleの動きは、業界単独の話ではありません。AWSはすでに自社開発のARMベースCPU「Graviton」を展開しており、クラウドプラットフォームにおける脱x86の先駆けとなっています。
こうした流れを整理すると、以下のようなトレンドが見えてきます。
- スマートフォン市場はすでにARMが席巻
- クラウド基盤でもAWS・Googleがそれぞれ自社ARMチップを推進
- クラウドプラットフォームがARMへ移行することで、サーバーメーカーやCPUベンダーへの影響も大きい
- Intelの業績低迷が続く中、x86アーキテクチャの相対的な地位が低下しつつある
一般企業においても、今後はx86からARMへの移行案件が増えてくる可能性があります。その際、Googleの事例が示すように、コード自体よりもビルド設定やCI/CDの整備が主な作業になることを念頭に置いておくと良いでしょう。
まとめ
GoogleがデータセンターのCPUをARMへ全面移行するプロジェクトは、単なる一企業の技術選択にとどまらず、クラウド業界全体の潮流を象徴する動きといえます。
- 自社設計のARMベースCPU「Axion」は、3nmプロセスで製造され、x86比で最大65%の価格性能比改善・60%のエネルギー効率向上を実現
- 移行作業の主役はコード変換ではなく、ビルド設定やCI/CDの変更(全体の84%)
- AIマルチエージェントシステムが約30%の問題を自律的に修正し、大規模移行を支援
AWSのGravitonに続くGoogleのARM本格移行は、クラウド基盤における「脱x86」加速の象徴的な出来事です。今後、一般企業のシステム移行においてもこのような流れが波及してくることが予想されます。大きな時代の転換点として、引き続き注目していきたいトレンドです。