新しくなったAzure Stack HCIは以前と何が違うのか?ゼロから整理します
この記事の内容
- Windows Serverの仮想化・ストレージ機能の歴史的な進化を振り返ります
- 旧Azure Stack HCI(Windows Serverベース)と新Azure Stack HCIの本質的な違いを解説します
- 新しいAzure Stack HCIが「Azure OSS」として位置づけられる理由を説明します
- Azure Arcとの関係と、ハイブリッドクラウド戦略における役割を整理します
- 今後の進化の方向性と新機能の追加計画についてお伝えします
Windows Serverの進化とHyper-V・ストレージの歩み
Azure Stack HCIを理解するにあたって、まずはWindows Serverがどのように進化してきたかを振り返ることが重要です。
Windows ServerはActive Directoryをはじめとするインフラ運用基盤として、またアプリケーションの実行基盤として長年にわたり進化し続けてきました。コンテナを使ったアプリケーション実行も可能な、非常にオールマイティなサーバーOSです。
仮想化という観点では、Windows Server 2008でHyper-Vが新登場し、仮想基盤としての機能を備えました。その後、Windows Server 2008 R2でHyper-Vが大幅に進化し、実用に耐えうるレベルになりました。
ストレージ面では、Windows Server 2012で「記憶域スペース(Storage Spaces)」が登場し、専用のストレージ装置なしにWindows Server単体でストレージ機能を実現できるようになりました。Windows Server 2012 R2では階層化ストレージ機能も加わり、SSDをキャッシュ・HDDを容量として活用するような構成も可能になりました。
Windows Server 2016の大きな転換点:記憶域スペースダイレクト
Windows Server 2016は仮想化インフラという観点で、ひとつの大きなマイルストーンとなったバージョンです。
このバージョンで登場した**記憶域スペースダイレクト(Storage Spaces Direct / S2D)**は、専用のストレージ装置なしに、ローカルディスクをソフトウェアの力で仮想的な共有ディスクとして利用できる仕組みです。
それ以前のモデルでは、複数のHyper-VサーバーをSMB 3でネットワーク接続し、スケールアウトファイルサーバーを別途構成する必要がありました。Windows Server 2016以降はハイパーコンバージドな構成が可能となり、コンピュートとストレージを同一ノードに集約できるようになりました。
ポイント:Windows Server 2016からは、Windows Serverの機能のみでHCI(ハイパーコンバージドインフラ)構成が可能になりました。
このとき、まだ「Azure Stack HCI」という名称は存在していませんでした。Windows Serverが単独でHCI構成を実現できるフェーズとして把握しておくことが大切です。
Azure Stack / Azure Stack Hub の登場
Windows Serverの進化とは別の文脈で、Azure Stackが2015年に発表され、2017年8月にGA(一般提供)されました。その後、2019年11月にAzure Stack Hubに名称変更されています。
Azure Stack Hubのコンセプトは「Azureの機能をそのままオンプレミスで利用可能にする」というものです。つまり、データセンターにAzureを持ち込むという発想です。
アーキテクチャとしては、決まったハードウェアメーカーの決まった構成でのみ動作する「統合システム」という特徴があります。下回りを見ると、WindowsServerベースで記憶域スペースダイレクトを使ったHA構成になっていました。
この点が、後述する旧Azure Stack HCIとも共通しています。Azure Stack Hub上では多数の仮想マシンが最初から稼働しており、Azure管理ポータルからAzureと同等の機能が使えるようになっていました。
旧Azure Stack HCI(2019年版)の実態
旧Azure Stack HCIは2019年3月26日に発表されています。
構成としては、決まったハードウェアメーカーの決まった構成でのみ動作する点はAzure Stack Hubと同様です。下回りはWindows Server + 記憶域スペースダイレクトによるHA構成でした。
つまり、旧Azure Stack HCIとAzure Stack Hubは、下回りの構造はほぼ同じものでした。上から見たときの体験(Azureとの一貫性の深さ)が異なるだけで、基盤としてはいずれもWindows ServerをベースにしたHCI構成でした。
旧Azure Stack HCIの実態:検証済みハードウェアを使い、Windows Server 2016/2019でハイパーコンバージドな仮想基盤を構築したもの。
また、Windows Admin Center(旧Windows管理センター)を使った管理や、Azureとのハイブリッド連携については、旧Azure Stack HCI専用の機能ではなく、Windows Serverがあれば共通して利用できる機能でした。
新しいAzure Stack HCIの登場:OSが変わった
ここからが本記事の核心部分です。
新しいAzure Stack HCIは2020年末に登場し、日本では2021年2月15日に国内提供が開始されました。
最大の変更点は、OSがWindows ServerではなくなりAzure Stack HCI OSという専用OSになったことです。
Microsoftのライフサイクルページを確認すると、「Azure Stack HCI」は製品カテゴリとして「Azure」に分類されており、まさにAzureの一サービスとして存在していることがわかります。
旧Azure Stack HCIとの比較
| 項目 | 旧Azure Stack HCI | 新Azure Stack HCI |
|---|---|---|
| OS | Windows Server | Azure Stack HCI OS(専用OS) |
| Azureへの接続 | オプション | 必須(未登録ではフル機能不可) |
| 料金体系 | Windowsライセンス | 物理コアあたり月額10米ドル(Azureの料金) |
| サポート窓口 | Windows Server | Azureサポート |
| Windows Serverライセンス | OS自体に含まれる | 付属しない(別途ゲストVMに必要) |
なぜOSが分かれたのか
Windows Serverは仮想化ホストとしての役割だけでなく、Active Directoryドメインコントローラー、アプリケーション実行基盤、コンテナ基盤など多様な役割を持つオールマイティなOSです。
一方で新しいAzure Stack HCI OSは、仮想化ホストに特化することを目的として設計されています。そのため、GUIモード(デスクトップエクスペリエンス)はなく、Active Directoryドメインコントローラー機能など仮想ホストに不要な役割・機能の多くが削除されています。
Get-WindowsFeature コマンドで確認すると、Azure Stack HCI OSはWindows Server 2022と比較して、利用可能なWindows機能の数が明らかに少ないことが確認できます。
新Azure Stack HCIはAzureの一サービス
新Azure Stack HCIは、Azureの一サービスとして位置づけられており、以下の点でWindows Serverとは根本的に異なります。
- Azureへの登録が必須:未登録状態ではフル機能を利用できません
- Azureポータルからの管理が前提:クラスターの監視・管理をAzureポータルから実施します
- 継続的にクラウドサービスとして機能が追加:Azureサービスとして継続更新されます
- 料金はAzureの課金:物理コアあたり月額10米ドルで支払います
- サポートもAzureサポート:Windows Serverのサポートとは異なります
- 延長セキュリティ更新(ESU)に対応:AzureのサービスであるためWindows Server 2008/2012などの古いゲストOSをVMとして動かした際、3年間の無償ESUが適用されます
ハードウェア要件の変化
旧Azure Stack HCIでは特定メーカー・特定構成のみ対応でしたが、新Azure Stack HCIでは前提条件を満たすすべてのハードウェアでAzure Stack HCI OSを動かすことができます。統合システムとして購入する方法の他に、検証済みノードとして購入する方法もあります。
Windows Serverとの共通点
OSは別物になりましたが、Windows ServerをベースにAzure Stack HCI OSが作られているため、Windows Serverで使ってきた主要なツールや技術はそのまま利用できます。
- Active Directoryドメインへの参加:従来通り可能です
- Windowsフェールオーバークラスターの構成:同様に作成できます
- PowerShellや管理ツール:Windows Serverと同様に使えます
リモートから仮想ホストとして管理しているだけの場合、Windows Serverとの違いに気が付かないこともあるかもしれません。そのため、Windows Server上の仮想基盤からの移行先として、Azure Stack HCI OSのHCI構成はスムーズに採用できます。
Azure Arcとの関係
新しいAzure Stack HCIを語る上で、Azure Arcとの関係は非常に重要です。
Azure Arcとは、多数のAzureサービスを束ねたブランドであり、大きく2つの側面を持ちます。
- あらゆるサーバーやKubernetesクラスターをAzureに接続し、一元管理する
- AzureサービスをAzure以外の場所(オンプレミス・他クラウド)で実行できるようにする
新しいAzure Stack HCIはAzure Arcにネイティブ対応して設計されています。Azureへの接続が必須になっているのもその現れです。
AzureポータルからクラスターのヘルスやリソースをAzure Arcを通じて一元管理でき、さらにAKS(Azure Kubernetes Service)がオンプレミスのAzure Stack HCIクラスター上でGAされているなど、Azureサービスをオンプレミスで実行する基盤としても整備されています。
Azureのハイブリッド戦略の中では「データセンターの近代化」を担う役割を持ち、Azure Stack HCIはその戦略の中核的な存在として位置づけられています。
これからのAzure Stack HCIの進化
クラウドサービスとして継続的に更新されていくAzure Stack HCIでは、以下のような新機能が追加・計画されています。
更新とライフサイクル
Windows ServerにはメインストリームサポートとExtended Supportの期限がありますが、Azure Stack HCI OSのサポート終了日はライフサイクルページに記載されていません。クラウドサービスとして継続更新し続けることを前提としているためです。
年に1回程度の大きな機能更新プログラムが提供され、毎月のセキュリティ更新プログラムも継続的に届きます。Windows 365やWindows 11と同様のサービスモデルに近い形態です。
統合システム(メーカー認定済みのハードウェア)を利用している場合は、Azure PortalからOSだけでなくハードウェアファームウェアやドライバーまで含めたアップデートをボタン操作で適用できます。
計画中・プレビュー中の機能(当時)
- ストレッチクラスター構成:Azure Stack HCIのみが対象となるディザスタリカバリ向け機能
- クラスター化されたVMでのGPU利用:バージョン2112のプレビュー
- カーネルソフトリブート:通常の再起動より大幅に短時間で再稼働できる再起動方式
- ネットワークATCの自動構成:複数のネットワークアダプターの役割(管理・コンピュート等)を定義すると自動構成し、設定ズレも自動修正
- ストレージシンプロビジョニング:ボリューム作成時に最大容量を決めつつ、使用分だけ実容量を消費する方式
- 異なる種類のノード混在クラスター:同一メーカー・モデルのサーバーを推奨するが、動的プロセッサー互換性モードによりCPUモデルが異なるノードの混在も対応
- AzureポータルからのセルフサービスVM作成:エンドユーザーがAzureポータルから仮想マシンを作成できる機能
まとめ
本記事では、HCCJP(ハイブリッドクラウド研究会)第24回勉強会の内容をもとに、新しいAzure Stack HCIと以前のバージョンの違いを整理しました。
最も重要なポイントは以下のとおりです。
- 旧Azure Stack HCI(2019年以前)はWindows Serverベースであり、名前とハードウェアの違いはあるものの、実態はWindows Serverを使ったHCI構成でした
- 新しいAzure Stack HCI(2020年末〜)はOSが別物です。Azure Stack HCI OSという専用OSで動作し、Windows Serverとは切り離された存在です
- AzureのサービスとしてAzureへの登録が必須となり、料金・サポート体系もAzureに準じます
- Azure Arcにネイティブ対応しており、オンプレミスでAzureサービスを実行するための基盤として位置づけられています
- 仮想化ホストに特化したOSとして今後も進化し続けることが約束されており、Windows Serverには実装されない新機能が継続的に追加されていきます
Azureとのハイブリッドクラウド戦略を進めたい場合、またはオンプレミスの仮想基盤を次世代の構成に移行したい場合は、新しいAzure Stack HCIの採用を検討する価値は十分あります。