OpenAIやAnthropicなど米フロンティアAI企業で働く従業員1,224人が2026年7月28日(米国時間)、共同声明「Pacing the Frontier」を公開した。求めたのは開発の禁止ではなく、AI開発の速度を意図的に調整する手段を国際協調で整備すること。PC Watchが7月29日付で報じた。AIを開発する当事者自身が、その手綱を握る仕組みを求めた格好だ。

声明の中身──止めてくれ、ではなく「調整する道具をくれ」

声明は、AI研究そのものをAIが担う「自動化されたAI開発」が近づいているとの認識に立つ。能力の向上速度が人間の理解や制御を超えて加速するリスクに備えるための時間が必要というのが趣旨だ。個々の企業や一国だけでは減速の判断を下せず、フロンティア全体の速度を調整する道具が世界のどこにも存在しない、と声明自身が認めている。

OpenAIとAnthropicが即座に賛同

OpenAIは同日、公式X(旧Twitter)アカウントで、フロンティアモデル開発の加速がいずれ非常に大きくなり、世界がAIの進歩速度を調整する必要が生じうると投稿した。手段の開発に向け、米政府主導の取り組みに貢献したいという。

Anthropicも同日、自社CEOのDario Amodei氏や複数の共同創業者・幹部が署名したとして支持を表明した。根拠に挙げたのは6月4日公開の自社研究「When AI builds itself(AIが自らを作るとき)」だ。同研究は、2026年5月時点で自社コードベースに統合されるコードの8割超をClaudeが書いていると明かし、AI開発を減速・一時停止する「選択肢」を世界が持つべきだと結論づけていた。

米政府の実際の動きは、むしろ逆を向いている

声明自体は特定の国や企業を名指ししていないが、要請の宛先は米政府だ。ただし直近の米国側の動きは減速とは逆の方向を示す。米科学技術政策局(OSTP)のMichael Kratsios局長は7月22日、中国Moonshot AIのモデル「Kimi K3」がAnthropicの「Fable」を蒸留して開発された疑いをXで指摘した。財務長官のScott Bessent氏も、制裁やエンティティリスト指定に言及している。Kimi K3は一部ベンチマークでClaude Fable 5やGPT-5.6 Solを上回ったとされ、米国内の危機感を強めている。

Amodei CEOは7月27日の公式ブログで、公開前の安全性テストを義務化するなら世界規模での実施が必要であり、中国の参加も欠かせないと述べた。速度調整が米国だけでは完結しないことは、Anthropic自身も認めている格好だ。

どの水準で、誰が減速の判断を下すのか。その具体的な仕組みは声明に示されておらず、米政府が要請に応じるかどうかも不透明なままだ。

日本から見たこの動きの意味

日本には現時点でこの規模のフロンティアAIモデルを単独開発する企業は存在せず、今回の議論は基本的に米中間の力学として進む。しかし日本のエンジニアの多くはClaude CodeやGPT系ツールを日常的に業務基盤として使っており、その開発速度や安全性方針をめぐる米国側の意思決定は、提供されるモデルの性能・料金・利用条件という形で間接的に波及する。米中どちらが開発速度で優位に立つかという競争構図が、今後日本企業が採用するAIツールの選択肢や価格競争にも影響しうる局面として、注視する価値がある。


出典: この記事は 「米政府主導でAI開発に減速を」 中国モデル台頭のさなかに出た共同声明 の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。