Microsoftは2026年7月、Identity基盤「Microsoft Entra」に3つのアップデートを加えた。管理者の誤操作や悪意ある変更からテナント設定を復旧できる「Entra Backup and Recovery」、脱獄・root化端末でのMicrosoft Authenticator資格情報登録を既定でブロックする機能、そして米国政府クラウド(GCC High/DoD想定)でのSCIM 2.0 API対応である。

テナントの「誤操作」から復旧できるEntra Backup and Recovery

これまでEntra IDには、条件付きアクセスポリシーの誤削除やアプリ登録の意図しない変更を「まとめて」ロールバックする標準機能がなかった。オンプレミスのActive Directoryであれば、システム状態バックアップからドメインコントローラーを復元する運用が定着していたが、クラウドのテナント設定にはそれに相当する仕組みが薄かった。Entra Backup and Recoveryは、テナント構成のスナップショットを取得し、誤操作や侵害後の不正な変更が見つかった際に特定時点へ復元できるようにする。

Authenticatorがジェイルブレイク・root化端末をブロック

Microsoft Authenticatorは、脱獄(ジェイルブレイク)済みiOSやroot化されたAndroid端末での新規資格情報登録を既定でブロックするようになった。改造済み端末はOSレベルの保護機構が無効化されており、TOTPシードやプッシュ通知の承認情報がマルウェアに窃取されるリスクが高い。これまでもデバイスの状態を確認するオプションはあったが、既定で有効化されたことで、多くの組織が意識せずに一段強いガードを得ることになる。

米国政府クラウドでもSCIM 2.0 API対応

SCIM(System for Cross-domain Identity Management)2.0 APIは、SaaSアプリとEntra ID間でユーザーのプロビジョニング・デプロビジョニングを自動化する標準仕様だ。商用クラウドでは以前から利用可能だったが、米国政府クラウドでは認証・コンプライアンス要件の関係で機能提供が遅れがちだった。今回の対応により、政府機関や公共部門の契約先でも入退社に伴うアカウント管理の自動化を、商用環境と同じ水準で実現できるようになる。

実務への影響

IT管理者にとって最も影響が大きいのはAuthenticatorのデフォルト変更だろう。BYOD運用で脱獄・root化端末を黙認してきた組織では、該当端末のユーザーが突然サインイン登録できなくなる可能性がある。展開前に対象端末の棚卸しと、ヘルプデスクへの周知をしておきたい。Entra Backup and Recoveryはプレビュー段階の機能を含む可能性が高いので、まずは検証テナントで復元手順を一度実際に回し、緊急時に迷わず使えるようにしておくのが実務的だ。SCIM対応は該当する政府系案件を持つ組織以外には直接の影響は薄いが、Entra側の機能ギャップが着実に埋まっている証拠として押さえておく価値がある。

筆者の見解

今回のアップデートは派手さのないものばかりだが、Identity基盤としてのEntra IDの信頼性を底上げする、地に足のついた強化だと思う。テナント単位の復旧機能がようやく整備されたのは、正直「もっと早くあってよかった」機能ではある。ただそれは裏を返せば、Entra IDがオンプレミスAD時代の運用ノウハウをクラウドでも再現しようとしている証でもあり、応援したいポイントだ。

Authenticatorの改造端末ブロックが既定オンになったことも評価したい。ゼロトラストの基本は「常に検証する」ことであり、デバイスの健全性を前提条件に組み込む今回の変更はその方向性に合致する。エージェントが業務を代行する時代が近づくほど、認証の入口を守るAuthenticatorのような足元の機能こそが効いてくる。派手なAI機能の裏で、こうした地道な改善を積み重ねられるかどうかが、Entra IDが「エージェントの管制塔」として長期的に信頼されるプラットフォームになれるかの分かれ目になるはずだ。


出典: この記事は What’s New in Microsoft Entra: July 2026 の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。