NVIDIAは7月21日(米国時間)、次世代CPU「Vera」に搭載する新コア「Olympus」の詳細を解説し、あわせてホワイトペーパーを公開した。PC Watchが報じたところによると、Olympusは単なる汎用サーバー向けCPUコアではなく、「エージェント型AI」の処理特性に照準を合わせて一から設計されたアーキテクチャだという。

なぜ「Olympus」が注目されるのか

生成AIの推論自体はGPUが担うことが多いが、複数のツール呼び出しや長い文脈を扱いながら自律的にタスクを遂行する「エージェント型AI」のワークロードは、CPU側にも従来とは異なる負荷をかける。ポインタを多用する制御ロジック、不規則なメモリアクセス、シリアル化された依存関係の長い処理チェーンなどだ。NVIDIAはOlympusにおいて、こうした“AIエージェント特有の負荷”を名指しで設計目標に掲げている点が特徴的で、GPUの性能を引き出す土台としてのCPU設計という新しい切り口を示している。

Olympusコアの技術詳細

フロントエンドは、統計的に偏りのある複雑な分岐パターンに対応するニューラル分岐予測器と、10-wideのデコードパスを備える。実行エンジンでは広範なリネーム/アロケーションエンジンと大きなリオーダーバッファ、豊富なレジスタ容量により深いアウトオブオーダー実行を実現し、メモリリネーミングや値予測、クリティカルパス高速化といった機構でストールを解消する。

演算面ではAI推論で重要となるFP8フォーマットに対応した128bit SVE2 SIMDパイプラインを6基搭載。キャッシュは各コアに64KBのL1命令キャッシュと96KBのL1データキャッシュ、2MBのL2キャッシュを備え、チップ全体で164MBのL3キャッシュを共有する。

さらに「NVIDIA Spatial Multithreading」という独自技術により、1スレッドの性能を最大化するモードと、2つの実行コンテキストとして動作させる高スレッド密度モードを切り替えられる。Vera CPUはOlympusコアを88基搭載し、176スレッドのSMTを提供する計算だ。

メモリはLPDDR5XベースのSOCAMM2を採用し最大1.2TB/s(コアあたり14GB/s)の帯域を確保。NVLink-C2C経由で別のVera CPUと最大1.8TB/sで接続でき、GPUやストレージとは88レーンのPCIe 6.4、CXL 3.1にも対応する。

NVIDIAの技術解説から見えるポイント

近年のx86サーバーCPUの主流はチップレット設計だが、NVIDIAはVeraであえてモノリシックダイを選択した。製造歩留まりでは不利になる一方、複雑なNUMAドメイン管理をソフトウェア側に強いる問題を回避でき、コア間レイテンシを最大50%抑えられるという。競合と同じ土俵に乗らず、正面から違う道を選んだ判断は評価できる部分だ。

一方で、AMDの最新アーキテクチャ「Zen 5」搭載EPYC 9755と比較してエージェントワークロードで最大1.8倍という数値は、あくまでNVIDIA自身が示したベンチマークである点には留意したい。第三者機関による独立検証はまだ行われておらず、実際の投入後にどこまで再現されるかは見極めが必要だ。

日本市場での注目点

Vera CPUはNVIDIAが2026年内の投入を明言している次世代プラットフォーム「Vera Rubin」の中核を担うとされ、個人が店頭やAmazon.co.jpで購入するような製品ではない。日本国内での入手経路は、クラウド事業者がデータセンターに導入し、インスタンスとして提供される形が中心になる見込みだ。競合にはAMD EPYC、Intel Xeon、AWS Graviton4やGoogle AxionといったArm系サーバーCPUが並び、「エージェントAI向け設計」を前面に出す点でVeraは差別化を図っている。国内でエージェント型AIサービスを構築するエンジニアにとっては、今後どのクラウドがVera世代のインスタンスを国内リージョンに投入するかが、コストとレイテンシの両面で無視できない選択肢になってくるはずだ。

筆者の見解

Olympusの設計思想でもっとも興味深いのは、NVIDIAが「エージェント型AI」という言葉をCPUのマイクロアーキテクチャ設計目標として明確に掲げた点だ。自律的にツールを呼び出し、判断し、実行を繰り返すエージェントのループは、GPUの計算力だけでなくCPU側のメモリレイテンシやオーケストレーション処理の効率にも大きく左右される。ここがボトルネックになっている現場は実は多く、派手なGPUの性能競争の陰に隠れがちだったCPU設計が正面から見直されたことには素直に注目したい。

もちろん1.8倍という数字は自社発表であり、鵜呑みにはできない。しかし「エージェントのループを回し続ける」という使われ方そのものがハードウェア設計の前提になり始めているという事実は、ソフトウェア側で自律エージェントの実装を進める立場からも心強い動きだ。GPUの数字だけを追うのではなく、CPU側の設計思想にも目を向けておく価値がある発表だと言える。


出典: この記事は NVIDIA、エージェント型AI時代のCPUコア「Olympus」の詳細 の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。