Microsoft Corp.は2026年7月20日、AMD(Advanced Micro Devices)が開発するAI特化ラック参照設計「Helios」をAzureのインフラに採用すると発表した。同時に、AMDの次世代GPU「Instinct MI455X」を72基搭載したHeliosラックを基盤とする新インスタンス「ND MI455X v7」シリーズをはじめ、計3つの新しいAzure仮想マシンファミリーを発表している。

Heliosとは何か

HeliosはAMDが製造パートナー向けに提供する参照設計(ブループリント)で、1ラックあたり72基のMI455 GPUを搭載する。MI455は432GBのHBM4メモリと19.6Tbpsのメモリ帯域幅を持ち、新しいコアアーキテクチャ「CDNA 5」を採用する。

特徴的なのは、GPUだけでなくPensando製DPU(データ処理ユニット)とEPYC CPUを組み合わせている点だ。ストレージ制御やネットワーク暗号化といったインフラ管理タスクをDPUに任せることで、CPUリソースを顧客アプリケーション側に多く割り当てられる設計になっている。CPUには次世代の「Venice」シリーズを採用し、TSMCの2nmプロセスとチップレットを積層する「SoIC」技術を使う。ラック全体は液冷方式を採用し、オープンソースのネットワークプロトコル「UALoE」でチップ間通信を行う。AMDのリサ・スーCEOは「AMDとMicrosoftは何年もかけて高性能インフラを共同構築してきた。今日、その提携をAMDのAIソリューション全体に拡張する」とコメントしている。

3つの新Azureインスタンス

Heliosを基盤とする「ND MI455X v7」は、AIエージェントや検索など推論ワークロード向けに最適化されている。もう一つの「HDv2」はGPUではなくCPU中心の処理、たとえばAIエージェント向けデータセットの前処理に最適化されており、EPYC Vulcanコアを最大500基、メモリ4TB、フラッシュストレージ32TBまで搭載できる。3つ目の「HXv2」は、半導体設計(EDA: Electronic Design Automation)向け既存シリーズの改良版で、科学シミュレーションなどより幅広い用途に対応する。5GHz超で動作するEPYCVulcanコアを176基搭載し、コアあたりキャッシュは従来比50%増、800Gb InfiniBandによりMPIベースの大規模シミュレーションにも対応するという。あわせて、仮想化処理をCPUから専用チップにオフロードする「Azure Boost」についてもAMDと共同最適化を進める。Heliosラックの出荷は今年後半に開始される予定だ。

実務への影響

日本のIT現場にとって直接効いてくるのは、AIエージェントや検索基盤をAzure上で運用する際の「GPU調達の選択肢が増える」という点だ。NVIDIA一辺倒だった大規模GPU需要にAMD系インスタンスが加わることで、需給ひっ迫時の確保のしやすさやコスト競争が働く可能性がある。推論ワークロードを設計する際は、ND MI455X v7が使えるようになった段階でベンチマークを取り、既存のNVIDIA系インスタンスと比較検討する価値がある。

また、AIエージェント向けにデータ前処理基盤を持つチームはHDv2のような大容量メモリ・フラッシュ構成のCPUインスタンスを、製造業や半導体設計に関わるエンジニアはHXv2のHPC/EDA向け強化を、それぞれ選定肢として押さえておきたい。いずれも一般提供の時期や地域展開はAzureの発表を継続的に確認する必要がある。

筆者の見解

Azureというプラットフォームの基盤としての信頼は、今回の件でむしろ裏付けられたと感じる。MetaやOpenAI、Oracleに続いてMicrosoftもAMDの主要クラウド顧客に加わった形だが、これは目新しい賭けというより、王道の手堅い判断だ。GPU供給を単一ベンダーに依存させず、実績のあるハードウェアの選択肢を顧客に用意する——これはAzureが本来強みを発揮すべき層であり、派手さよりも堅実さが評価されるべき動きだと思う。

個人的には、AIの世界で「どのAIモデルを使うか」を細かく追いかける意味が薄れてきている中で、その土台となるインフラの多様性・信頼性こそがクラウドベンダーの実力を測る指標になると考えている。AMDという有力な選択肢を正面から取り込めるだけの基盤を持っていることは、Azureの地力の証明でもある。あとはND MI455X v7が実際にどれだけの性能とコスト競争力を日本のユーザーに届けられるか、一般提供のタイミングで注視したい。


出典: この記事は Microsoft will use AMD’s AI-optimized Helios racks in Azure の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。