米Ars Technicaが7月20日(現地時間)に報じたところによると、欧州委員会(EC)は中国系ECサイト「AliExpress」に対し、デジタルサービス法(DSA)史上最高額となる約6億2500万ドル(本稿執筆時点のレートで概算940億円前後)の制裁金を科した。危険な玩具や化粧品などの違法・不安全な商品を放置し、2025年6月に出されていた是正命令にも従わなかったことが理由とされる。

是正命令を無視し続けた"放置"の実態

ECの発表によると、AliExpressは違法・不安全・模倣品の販売リスクを継続的に評価・軽減するための体制を整えていなかった。The Guardianの報道では、一部のコンテンツモデレーターは通報された商品がEU基準を満たしているかを判断するのに「わずか数十秒」しか与えられていなかったという。結果として、削除対象になった商品が再び出品される事例が「数百万件」見つかり、中には1カ月以上放置されたケースもあったとECは指摘している。

出品者側の抜け道も見過ごされていた。商品カテゴリーを偽って登録するだけで自動チェックを回避できる状態だったほか、ブランド正規品を証明する仕組みも人員不足で機能していなかった。さらに、レコメンド機能や広告システムが違法商品の拡散を助長していたことも問題視された。安全性を測る指標が単一の定量メトリクスに依存しており、実際の被害の広がりを正しく捉えられていなかった点も、ECが「特に重大な違反」と断じた理由の一つだ。

Temu・Xに続く制裁、EUの本気度

DSAに基づく制裁金は今回が3件目。2025年12月にはXが検証済みマークの不正表示などで約1億4000万ドル、Temuも違法商品の流通を理由に約2億2500万ドルの制裁金を科されており、いずれも今回のAliExpress案件の前例となった。EUのデジタル政策責任者Henna Virkkunen氏は、欧州の消費者の5人に1人が月1回以上AliExpressやTemu、Sheinのような越境ECサイトを利用していると指摘し、プラットフォームの規模の大きさが免罪符にはならないと強調している。AliExpressはArs Technicaに対し「不釣り合いな金額」だとして「驚いている」とコメントし、控訴の方針を示した。

日本市場での注目点

DSAはEU域内向けの規制であり、日本の消費者やAliExpress日本語版の利用には直接適用されない。ただし、今回問題視された「安全でない玩具」「危険な化粧品」といった商品カテゴリーは、同じ出品者・同じサプライチェーンから日本向けにも流通している可能性が高く、対岸の火事とは言い切れない。日本ではPSCマークなど独自の安全基準はあるものの、越境ECで購入した商品まで網羅的にチェックする体制は発展途上だ。消費者庁も越境取引のトラブル注意喚起を続けているが、法的な執行力という点ではEUのDSAの方が一歩先を行っている。TemuやSheinも日本でユーザー数を伸ばしており、今回の一件は「安いから」という理由だけで玩具や化粧品を選ぶことのリスクを再認識させる材料と言える。

筆者の見解

今回の一件で興味深いのは、AliExpressが「安全性を測る指標」を単一の定量メトリクスに頼っていた、とECに指摘された点だ。数字上は基準をクリアしているように見えても、実態としての被害は減っていない——これは巨大プラットフォームの安全管理に限らず、組織が何かを「見える化」しようとするときに繰り返し起きる罠だ。分かりやすい指標だけを追いかけると、その指標をハックすることが目的化し、本来守るべきものが後回しになる。

もう一つ気になるのは、部分最適の積み重ねが全体の機能不全につながっている構図だ。モデレーターの人数、カテゴリー分類の甘さ、ブランド認証の形骸化、レコメンド機能の暴走——個々の穴はそれぞれ小さく見えても、束になれば「数百万件の違法商品が再出品される」という重大な結果を生む。禁止や取り締まりを強化するだけでなく、出品者にとっても消費者にとっても「正しく使うのが一番簡単」と感じられる仕組みを作れているかどうかが、結局は問われている。日本のECサービスや越境取引を扱う事業者にとっても、対岸の火事ではなく先取りして備えるべき教訓だろう。


出典: この記事は AliExpress hit with record $625M fine after failing to make EU-ordered fixes の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。