ソニー・ミュージック・エンタテインメント(Sony Music Entertainment、SME)は現地時間7月20日、AI音楽生成サービス「Udio」を著作権侵害でニューヨーク連邦地方裁判所に新たに提訴した。対象となる楽曲はエルヴィス・プレスリーの「Hound Dog」からビヨンセの「Say My Name」、ハリー・スタイルズの「As It Was」まで3万曲を超える。
発端は2024年の共同訴訟、開示手続きで対象が急拡大
話は2024年にさかのぼる。SMEはユニバーサル ミュージック グループ(UMG)、ワーナー・レコードとともに、Udioと競合の音楽生成AI「Suno」を著作権侵害で提訴した。この時点での対象楽曲は333曲だった。
その後の開示(ディスカバリー)手続きでUdioの学習データへのアクセスが認められたことで状況が一変する。SMEは「オーディオ・フィンガープリンティング」という技術を用いて、Udioが無断で学習データに取り込んだとみられる楽曲をさらに3万曲以上特定したと主張している。SMEは当初、この3万曲分を既存の訴訟に追加する形で申し立てたが、裁判所はこの拡大申請を却下した。そこでSMEは新たに単独の訴訟を起こす形をとった。
訴状でSMEは、Udio自身が「学習用プログラムに大量の多様な音源を見せることで(モデルを)構築した」と認めており、その音源にはYouTube由来のものも含まれると主張している。SMEは差止命令に加え、侵害1曲あたり最大15万ドルの法定損害賠償を求めている。対象曲の全リストは訴状に添付されており、SMEは今後さらに対象を拡大する可能性があるとしている。
興味深いのは、同じ2024年の共同原告だったUMGとワーナー・ミュージック・グループはすでにUdioと和解し、現在はパートナーとしてAI音楽生成を業界に取り込む方向に舵を切っている点だ。音楽業界全体が「訴訟か協業か」の分岐点に立たされている中で、SMEだけが訴訟継続という強硬路線を選んでいる。
日本のIT現場にとっての意味
この訴訟は音楽業界だけの話に見えるが、実際は生成AI全般が抱える「学習データの出所問題」の縮図だ。テキスト生成AIの世界でも、ニュース出版社や作家団体が大手AI企業を相手取った訴訟が続いており、音楽・画像・コード・文章、あらゆるモダリティで同じ構図の争いが起きている。
日本企業がAI生成コンテンツ(音楽・画像・BGM等)を製品やマーケティング素材に組み込む際は、「そのAIツールの学習データが適法にライセンスされているか」を確認することが今後ますます重要になる。特にUdioのように訴訟が係属中のサービスを商用利用に組み込むと、後から差止命令や損害賠償請求の巻き添えを食うリスクがある。IT管理者は、社内でAI生成ツールを導入する際のガイドラインに「学習データのライセンス状況の確認」を項目として加えておくべきだろう。
筆者の見解
今回の訴訟で象徴的なのは、同じ原告陣営だったUMGとワーナーがすでにUdioと和解し協業に転じている一方、SMEだけが訴訟を続けているという対比だ。これは「AIを禁止するか、安全に使える仕組みを作るか」という選択そのものを体現していると感じる。禁止だけを続けるアプローチは長期的にはうまくいかない。ユーザーやクリエイターにとって「公式に提供された、ライセンスがクリアな仕組みが一番便利」という状態を作れた側が、結局は市場を取ることになる。
UMGとワーナーの動きは、まさにそうした「安全に使える仕組み」への転換だろう。学習データのライセンス問題を解決し、アーティストへの還元の仕組みを組み込んだ上でAI音楽生成を受け入れる——このアプローチのほうが、訴訟を延々と続けるより実利があるはずだ。SMEの今回の提訴も、Udioとの協業合意に向けた交渉材料としての側面を持っているとしても不思議ではない。
日本の音楽・エンタメ業界も、AI生成コンテンツとの向き合い方を「様子見」から「仕組み作り」へ移す時期に来ている。技術を止めることはできない以上、ライセンスと収益還元の設計を先にやった者が主導権を握る。それは生成AIのあらゆる領域に共通する教訓だと思う。
出典: この記事は Here are the 30,000 songs Sony is suing Udio’s AI music generator over の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。