中国のAI企業DeepSeek(深度求索)が、NvidiaとHuawei Technologiesへの依存度を下げるため、自社設計の推論(インファレンス)用AIチップを開発していることが、Reutersの報道で明らかになった。事情に詳しい関係者3人の話として、DeepSeekはこの1年ほど水面下でチップ設計・製造・メモリ各社と協議を重ね、経験豊富なチップ設計エンジニアの採用も進めているという。取り組みはまだ初期段階とされる。
学習より重視される「推論」の主導権
DeepSeekは2025年1月、低コストかつ高性能な「R1」モデルで一躍脚光を浴び、米国株の一部を急落させたことで知られる。当時同モデルはNvidiaのH800(中国市場向けに性能を制限したチップで、後に米国が禁輸)で学習されていた。その後は主にHuaweiの「Ascend」GPUに軸足を移し、2026年4月に発表した最新モデル「V4」はAscend向けに最適化されている。
今回焦点となっているのは学習用ではなく「推論」用チップだ。学習は話題性を生むが、実際にユーザーがモデルを使うたびに発生する推論コストこそが、AI企業にとって継続的な収益とコストのせめぎ合いの場になる。DeepSeekがここを自社制御下に置こうとするのは、収益化の主導権を握るための合理的な一手といえる。
OpenAI・Anthropicと同じ道、そしてAlibaba・Baiduも
自社推論チップの開発は、DeepSeekが初めてではない。OpenAIはBroadcomと共同設計した推論チップ「Jalapeño」を発表済みで、Anthropicも同様の取り組みを進めているとされる。狙いはNvidia依存の低減に加え、AppleがiPhoneやMacで自社チップを設計するように、ハードウェアからソフトウェアまでを垂直統合し技術スタック全体の主導権を握ることにある。中国国内でもAlibabaやBaiduが独自AIチップの開発を進めており、米国の輸出規制がHuaweiを中国市場の主要サプライヤーに押し上げた一方で、DeepSeekは特定ベンダーへの過度な依存を避けたい考えのようだ。
実務への影響
日本のエンジニアやIT管理者にとって、この動きは対岸の火事ではない。AI活用が学習フェーズから運用フェーズに移るほど、コストの主戦場は推論に移っていく。クラウドAIサービスを選定する際は、モデル精度だけでなく、裏側のチップ供給構造や価格改定リスクにも目を向けたい。特定ベンダー・特定チップへの過度な依存は、地政学リスクや輸出規制の影響を受けやすい。マルチベンダー・マルチクラウドで推論基盤を分散させておく、あるいは推論コストの実測値を継続的にモニタリングする仕組みを社内に持っておくことが、実務上の具体的な備えになる。
筆者の見解
学習コストばかりが話題になりがちだが、AIをビジネスとして回す上で本当に効いてくるのは推論コストだ。DeepSeekがそこに手を伸ばし始めたのは、AIを「作って終わり」ではなく「使い倒して勝つ」フェーズに入った証拠だろう。OpenAIやAnthropicが同じ方向に動いているのも、自律的にタスクをこなすAIエージェントを大量に走らせる時代には、推論の主導権を握った企業が有利になるという読みが働いているはずだ。
日本企業の多くはまだAIを「試す」段階にとどまり、推論コストを本気で最適化する発想自体が薄い。チップまで自作する体力は普通の企業にはないが、「推論コストは経営指標として継続的に見るものだ」という発想だけは今のうちに持っておくべきだ。海外勢がハードウェアレベルで主導権争いを始めているという事実は、AI活用が次のステージに入ったことの一つの証左として受け止めたい。
出典: この記事は Report: China’s DeepSeek follows OpenAI in developing its own custom inference chips の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。