Microsoftは2026年6月、Microsoft 365 Copilotに複数の新機能を追加したと発表した。カメラ越しに画面や実物を見せながら質問できる「Vision」機能、Copilot Pagesでの提案編集機能、AI生成の音声・動画に対する電子透かしポリシー、そしてAgent Builderで作成したエージェントを管理者承認フローを経てAgent Storeに公開できる仕組みが新たに加わった。
Vision機能 ― カメラ越しに「見せて聞く」
Visionは、スマートフォンやPCのカメラ、あるいは画面共有を通じて「今見ているもの」をCopilotに見せながら質問できる機能だ。ホワイトボードの図、機器のパネル、紙の資料など、テキスト化されていない情報についてもその場でCopilotに解説や次の一手を尋ねられる。これはGPT-4VやGeminiのライブ機能で先行してきたマルチモーダル対話の流れをM365 Copilotにも本格的に取り込んだものと言える。
Copilot Pagesに提案編集機能
Copilot Pagesは、これまでCopilotが文章を直接書き換える形が中心だったが、今回の更新でWordの「変更履歴」やGoogle Docsの「提案モード」に近い、人間がAccept/Rejectを選べる提案編集が可能になった。AIが生成した変更点を人間が必ず確認してから確定させる、というワンクッションが入る点は地味だが実務上は重要な改善だ。
AI生成コンテンツへの電子透かしポリシー
Copilotが生成した音声・動画に対して、AI生成であることを示す電子透かしを付与するポリシーも導入された。C2PA(Content Credentials)のような業界標準の流れに沿ったもので、ディープフェイクやAI生成コンテンツの真正性が問題視される中、企業がAI生成物と人間が作成したものを区別・監査できる仕組みを標準機能として持たせる意義は大きい。
Agent BuilderからAgent Storeへ ― 管理者承認フローの追加
Agent Builderで作成した独自エージェントを、社内のAgent Store(エージェントストア)に公開する際に、管理者の承認を経るワークフローが新設された。これまでは個人やチーム単位でエージェントを作成・利用できても、全社公開の手前でIT管理者がレビューする標準的な仕組みが弱かった。今回の更新でエージェントのライフサイクル管理に「審査ゲート」が組み込まれたことになる。
実務への影響
日本の現場への影響は主に2つある。まずVisionと提案編集は、サービスデスクや現場作業の記録・報告といった「テキスト化しにくい業務」でのCopilot活用の幅を広げる。カメラ越しの質問はヘルプデスクの一次対応や、紙の伝票・現物確認が残る業務プロセスとの相性が良い。
もう一つ、より重要なのがAgent Storeの承認フローだ。日本企業の多くは「誰が何のエージェントを作り、誰が公開を許可したか」を追跡する仕組みをまだ持っていない。野良エージェントが社内に増えていく状況は、野良の特権アカウントが増えていくのと本質的に同じリスクを抱える。今回の承認フローは、エージェントというNon-Human Identity(非人間ID)のガバナンスを標準機能として提供する第一歩であり、IT管理者は「使わせない」ではなく「承認して安全に使わせる」運用を設計する好機だ。
筆者の見解
エージェントの数が増えるほど、それを人間がいちいちチェックする体制はいずれ破綻する。今回Agent Storeに管理者承認フローが入ったのは、エージェントというNon-Human Identityのライフサイクルを組織としてどう管理するかという、本質的な課題にMicrosoftがようやく手を付けた形で、方向性としては正しい。ゼロトラストの文脈で言えば、常時全公開ではなく審査ゲートを挟む設計は理にかなっている。
Visionや提案編集のような機能追加自体も着実な改善で、Copilotの実務適用範囲は確実に広がっている。ただ、せっかくここまでの実力があるのだから、Copilotだけに閉じた使い方を前提にするのではなく、Teamsの議事録やOutlookの定型業務のような日常タスクはCopilotに任せつつ、より踏み込んだ分析や創造的なタスクではAzure AI Foundry経由で別の選択肢も併用できる、という設計を組織側で用意しておくのが現実的だ。Microsoft 365は統合してこそ価値が出るプラットフォームであり、Copilotがその中心で正面から勝負できる存在であり続けてほしいというのが率直な期待だ。
出典: この記事は What’s New in Microsoft 365 Copilot | June 2026 の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。