Googleは2026年7月17日、Gemini 2.5 Proのアーキテクチャを土台から刷新した新モデル「Gemini 3.5 Pro」を投入した。目玉は200万トークンという巨大なコンテキスト窓と、難易度の高い問題向けに時間をかけて深く思考する「Deep Think」モードの搭載である。
200万トークンのコンテキスト窓の破壊力
生成AIの「コンテキスト窓」とは、一度のやり取りでモデルに読み込ませられる情報量の上限のことだ。Gemini 3.5 Proはこれを200万トークン(日本語でおおむね150万文字前後)まで広げた。実務的に言えば、中規模のコードベース全体、数百ページの技術文書、あるいは長時間の会議録を、要約や分割(チャンク化)なしに丸ごと1回の問い合わせで扱えるということになる。GoogleはGemini 1.5世代から長文コンテキストを強みにしてきたが、3.5世代でその上限をさらに倍近くまで押し上げた形だ。
「Deep Think」モード ― 時間をかけて深く考える
もう一つの目玉が「Deep Think」と呼ばれる推論モードだ。通常の応答よりも長い時間をかけて内部で思考過程を重ね、数学の証明や複雑なアルゴリズム設計など難易度の高い問題で精度を高める仕組みで、拡張推論(extended thinking)系のモードと同様の発想である。ただしDeep Thinkは月額250ドルの「Ultra」プランでのみ提供され、API経由の開発者向け料金は入力100万トークンあたり約15ドル、出力60ドルとされる。最上位の推論機能は一般開発者のAPI利用からは切り離された、消費者向け上位プラン限定の位置づけだ。
実務への影響
日本のエンジニア・IT管理者にとっての意味は大きく2つある。
1つ目は、超長文コンテキストが「使える」かどうかは窓のサイズだけでは決まらないという点だ。長いコンテキストほどモデルが情報の中盤を読み飛ばしやすくなる「Lost in the Middle」現象が知られており、200万トークン全部を均等な精度で扱えるとは限らない。導入前に自社の実データで検索・要約の精度を検証すべきだ。
2つ目は、情報システム部門にとっての統制の論点だ。コンテキスト窓が巨大になるほど、社外秘の設計書やソースコードを丸ごと投げ込みたくなる誘惑が強まる。ここで「AI利用禁止」で蓋をするのではなく、どのデータをどのプラン・環境で扱ってよいかを明確にした、安全に使える利用フローを用意する方が結局は現場に浸透する。
筆者の見解
率直に言えば、コンテキスト窓のサイズやベンチマークのスペック表だけを見て「乗り換えるべきか」を判断するのはあまり薦めない。200万トークンという数字は確かにインパクトがあるが、実務で効くのは「窓の大きさ」より「実際の業務データでどれだけ正確に答えを引き出せるか」であり、それは自分の手で試してみないとわからない。
情報を追いかけて一喜一憂するより、手元の環境で実際に使い倒して成果を出す経験の方が、今の時代はよほど価値が高いと筆者は考えている。Deep Thinkのように高価で用途の限られる機能は特に、話題性だけで飛びつく前に、自分たちの業務のどの部分に効くのかを冷静に見極めたい。Googleが長文コンテキストで独自の強みを積み上げてきたこと自体は事実であり、今後の実運用でどこまで「使える」精度を示せるか、引き続き注目したい。
出典: この記事は Gemini 3.5 Pro Developer Guide: 2M Context Window and Deep Think Mode の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。