フランスのAIスタートアップMistral AIは2026年7月2日、形式検証言語「Lean 4」向けの証明支援AIモデル「Leanstral 1.5」をApache 2.0ライセンスでオープンソース公開した。数学の証明ベンチマークで最高水準の性能を出しただけでなく、実際のオープンソースリポジトリ57件を検証させたところ、これまで報告されていなかったバグを5件発見したという。Hugging Faceからモデル重みを入手できるほか、無料APIエンドポイントとしても提供されている。

数学の証明からコード監査まで

Leanstral 1.5は1190億パラメータのMixture of Expertsモデルで、トークンごとの有効パラメータは65億、コンテキストウィンドウは25.6万トークン。高校〜五輪レベルの数学証明ベンチマーク「miniF2F」で100%を達成し、Putnam数学コンペの問題672問中587問を解いた。大学院修士〜博士レベルの代数ベンチマーク「FATE」でもオープンソースモデル最高スコアを更新している。特筆すべきはコストで、Putnamベンチ1問あたり約4ドルと、競合の商用モデルSeed-Prover 1.5(300ドル超)やAleph Prover(54〜68ドル)に比べて桁違いに安い。なお前身の無印Leanstral(2026年3月公開)は、証明タスク特化の条件下でAnthropicのClaude Sonnetを上回る結果を示していたとMistralは説明している。

「サイレント破損」を見抜いた実例

最も実務的に興味深いのは、ベンチマークではなく実コードでの成果だ。RustのライブラリdatrsのvarintegerクレートにあるZigZagデコード処理で、符号を扱う関数がU64の最大値入力時にオーバーフローを起こすバグを発見。デバッグビルドではクラッシュするが、リリースビルドでは値がラップして「エラーも出ずにデータが静かに壊れる」という、最も厄介な種類のバグだった。

学習方法:コンパイラとの対話でループを回す

学習は「証明データでの中間学習」「教師ありファインチューニング」「CISPOと呼ぶ強化学習」の3段階。強化学習は、コンパイラのフィードバックを受けながら複数ターンで証明を組み立てる環境と、ファイルシステムやLean言語サーバーにアクセスして開発者の作業を模した「コードエージェント環境」の2種類で行われた。デモではAVL木の操作がO(log n)であることを、270万トークン・22回のコンテキスト圧縮を経て証明しきったという。

実務への影響

形式検証はこれまでLeanやCoqといった専門言語の高度な知識が必要で、暗号ライブラリやOS基盤など一部のクリティカルなコードにしか使われてこなかった。Leanstral 1.5のようなモデルが安価に使えるようになれば、既存OSS依存ライブラリの脆弱性監査やCIパイプラインへの形式検証組み込みという選択肢が、専門家が少ない日本の開発現場にも現実的になってくる。すぐに全社導入すべき話ではないが、セキュリティが重要なRust/C系コンポーネントを抱えるチームは、無料APIで試せる範囲から触っておく価値がある。

筆者の見解

今回の一番の見どころは、ベンチマークのスコアそのものよりも「コンパイラのフィードバックを受けながら長時間ループを回し、最後まで検証をやり切った」というプロセスにある。22回のコンテキスト圧縮を経てAVL木の証明をやり切った例も、実運用コードから未報告のバグを見つけた例も、目的だけを与えれば自律的にタスクを完遂するエージェントの姿そのもので、AIエージェントの本質がどこにあるかを改めて示している。

この手のニュースは情報として追いかけるだけで終わりがちだが、大事なのは自分の手元の依存ライブラリやCIに実際に組み込んで、成果が出るかどうかを確かめることだ。オープンソース・Apache 2.0・無料APIという提供形態も、一部の専門家だけが使える閉じた技術ではなく、誰もが安全に検証を試せる環境を広げるという意味で歓迎したい方向性だと思う。


出典: この記事は Mistral AI Unveils Leanstral 1.5, an Open-Source Formal Verification Model That Found Five Unknown Bugs の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。