AIベンチマークメディアのTryAIは2026年7月9日、OpenAIの新モデル「GPT-5.6」(Sol・Terra・Lunaの3グレード)、xAIの「Grok 4.5」、AnthropicのClaude(Opus 4.8・Fable 5)、Metaが初めて投入したコーディング特化モデル「Muse Spark 1.1」、さらにQwen・DeepSeek・Kimi・GLMなどオープンウェイト系を加えた合計12種のAIモデルに、同一の4本のアプリ――レイキャスター式3D迷路、3Dルービックキューブ、電卓、ライフゲーム――を作らせる「ビルドオフ」対決の結果を公開した。各モデルにつき5回ずつ試行し、成功率のばらつきとコスト・所要時間を並べて可視化したのが今回の見どころだ。
前回への反応を反映した再検証
TryAIは以前実施した同様の企画がHacker Newsで大きな反響を呼び、「オープンウェイトモデルも入れてほしい」「1回の試行だけでは判断材料として弱い」という指摘を受けていた。そこで今回はQwen 3.7 Plus・DeepSeek V4 Pro・Kimi K2.6・GLM-5.2をFireworks経由で追加し、各タスクを5回ずつ試行する形に改めた。TryAI自身も「これは科学的な検証ではなく、あくまで観察結果の共有」と明言しており、数字を鵜呑みにせず参考情報として捉えるべき性質のものだ。
レイキャスター迷路で見えた明暗
最初の課題「WASDで歩けるレイキャスター式3D迷路」では、GPT-5.6 Sol(5/5成功、$1.35、120秒)とGPT-5.6 Luna(5/5成功、$0.15、23秒)がともに満点を記録した。特にLunaは最安・最速でありながら安定して動くコードを生成しており、軽量タスクでは必ずしも高価格帯のモデルが必要ないことを示した。Grok 4.5も5/5・$0.27というコストパフォーマンスの良さを見せている。一方Claude Opus 4.8は4/5(堅実だが平凡)、上位モデルのClaude Fable 5は最も高コスト($2.35)でありながら3/5にとどまった。MetaのMuse Spark 1.1は2/5と成功率こそ低いものの、成功した回はGPT-5.6 SolやClaude Fable 5に匹敵する完成度だったとTryAIは評価しており、Metaが本気でコーディング領域に参入してきたことをうかがわせる。オープンウェイト勢では、GLM-5.2が見た目の描画は良好ながら一度もキャラクターを動かせず0/5に終わるなど、モデルごとの得意不得意がくっきりと分かれた。
実務への影響
日本のIT現場でも、単一ベンダーのモデルに固定せず用途に応じて複数モデルを使い分ける「マルチモデル運用」が現実的な選択肢になりつつある。今回のようにコスト・所要時間・成功率が同じ土俵で比較できるデータは、社内でモデル選定の基準を作る際の材料になる。特に「最新の上位モデルが常に最善とは限らない」という点は実務上重要で、単純なUI生成やプロトタイピングであれば安価な下位グレード(Lunaのような)で十分なケースは多い。開発チームがモデルを選ぶ際は、公開ベンチマークの数字だけで判断せず、自社の実タスクで同条件の比較を行うことをおすすめしたい。
筆者の見解
筆者は日頃、AIエージェントによる自律的なコーディングをClaude Codeで使い倒しているが、今回のような「1回の指示でどこまで完成度の高いコードを一発生成できるか」というベンチマークは、実際の開発現場で価値を発揮する自律ループ型のエージェント運用とは評価軸が異なる点に注意したい。エージェントが自分でコードを実行し、テストし、失敗したら直すというループを回せるかどうかが今の開発体験を左右する本質であり、単発生成の巧拙とは別の話だ。その意味で、今回Claude系が振るわなかった結果はやや意外ではあるものの、一発勝負のタスクでの数字であることは差し引いて見る必要がある。むしろ興味深いのはMetaのMuse Spark 1.1の健闘で、成功時の完成度が上位モデル並みだったという結果は、コーディング領域の競争がここまで激しくなっていることの表れだろう。ベンチマークの数字を追いかけるより、自分の手元のワークフローで実際に試して確かめるのが結局は一番の近道だと改めて感じさせる企画だった。
出典: この記事は GPT-5.6, Grok 4.5, Claude, and Muse Spark build the same 4 apps の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。