Azureの耐障害性検証サービス「Chaos Studio」に、実験環境をまとめて管理できる新機能「Workspaces」が加わり、パブリックプレビューとして公開された。Microsoft Azure CTOのMark Russinovich氏がAzure公式ブログで明らかにしたもので、可用性ゾーン障害やリージョン全体の障害といった大規模シナリオを、実際に発生したAzure障害のパターンを反映したテンプレートを使い、数クリックで再現できるようになる。

Chaos Studioの位置づけ

Azure Chaos Studioは、本番相当の環境に意図的に障害を注入し、アプリケーションが設計通りに復旧するかを検証するカオスエンジニアリング専用サービスだ。ネットワーク遅延やVM停止といった局所的な障害注入は以前から可能だったが、「ゾーン障害」「リージョン障害」のような広範囲シナリオを組み立てるには、複数の実験を手動で組み合わせる必要があった。

Workspacesがもたらす変化

新機能のWorkspacesは、関連する実験・ターゲット・結果を1つの作業単位にまとめ、複数チームやプロジェクトをまたいだ管理を容易にする。目玉は、実際にAzureで発生した障害の傾向を分析して作られた組み込みシナリオテンプレートだ。ゾーン単位の電源・ネットワーク断、リージョン間フェイルオーバーといった典型パターンを、ゼロから実験を設計せずに数クリックで実行できる。さらにAzure Monitorと連携し、実験の実行結果・メトリクス・アラートを単一ダッシュボードに集約。Microsoft Entra IDとの統合により、誰がどの実験を実行できるかをロールベースで管理できる点も見逃せない。

実務への影響

日本企業では、DR(災害復旧)訓練やBCP(事業継続計画)の実効性検証が机上訓練で終わりがちで、実際にリージョン障害を模擬して復旧手順を確認するところまで踏み込めていないケースが多い。Workspacesの組み込みテンプレートは、この最初の一歩のハードルを大きく下げる。非本番環境から始め、四半期ごとのDR訓練やリリース前のカナリア検証にChaos Studio実験を組み込むといった運用が現実的になった。

また、Entra IDによる実験実行権限の管理は、カオスエンジニアリングにおける「誰が本番環境に障害を注入できるか」というガバナンス課題への回答でもある。実験実行権限は常時付与するのではなく、必要なときだけロールを割り当てるJust-In-Time運用にしておくのが安全だろう。

筆者の見解

生成AIの競争ではMicrosoftは苦戦を強いられているが、こうした地味だが本質的なインフラ運用力の分野は、Azureが本来強みを発揮すべき領域だ。実際の障害データに基づいたテンプレートを標準機能として提供する姿勢は、壊れないシステムを作るのではなく壊れても復旧できることを検証し続けるという現実的な発想であり、好感が持てる。

日本のエンタープライズは総じて可用性設計への投資は手厚い一方、実際に障害を模擬して検証する文化が薄い。ツールが揃った以上、あとは使うかどうかだけの話だ。せっかく用意されたテンプレートを使わない手はない。まずは非本番環境で試し、成果を測ってから本番適用を検討するという、地に足の着いた進め方をおすすめしたい。


出典: この記事は Proving application resilience on Azure with Chaos Studio の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。