米調査会社IDC(International Data Corporation)は7月8日(現地時間)、2026年第2四半期における世界のPC出荷実績を発表した。PC Watchが報じたところによると、出荷台数は前年同期比4.9%減の6,820万台となり、9四半期連続で続いていた成長が一転してマイナスに転じたという。背景にあるのは、メモリ・ストレージの供給不足と、それに伴う価格高騰だ。

なぜこのデータが注目か

PC市場はコロナ禍後の落ち込みから回復し、ここ数年は緩やかな成長基調を保ってきた。それが9四半期ぶりに減少へ転じたこと自体がまず目を引くが、IDCが特に問題視しているのは「出荷台数の減少」と「売上高の増加」が同時に起きているという乖離だ。台数は減っているのに、業界全体の売上は伸びている。つまり1台あたりの価格が明確に上昇しているということであり、メモリ・ストレージ高騰分がすでにエンドユーザー価格へ転嫁され始めている段階だと読み取れる。

IDCレポートのポイント

IDCの分析によると、今回のデータで押さえておくべきポイントは以下の通りだ。

気になる点

  • マクロ経済状況の悪化に加え、メモリ不足は2028年初頭まで緩和が見込まれないとIDCは見ている。これにより、これまで需要期に見られた「在庫の前倒し発注」が再び起こりにくくなり、2026年後半には成長率が大幅に鈍化する見通しだという
  • ベンダー各社は2027年にかけてさらなる値上げに備えており、販売チャネル側ではすでに高価格帯での在庫増加への懸念が表明され始めているとIDCは指摘する
  • クラウドコンピューティングのコスト上昇を背景に、ローカルデバイス上でAI処理を行うことへの関心が高まっている一方で、メモリ不足がPCのアップグレードサイクル全体を抑制するリスクになっている点も課題として挙げられている

注目すべき動き

  • Apple、Dell、Lenovoといった大手ブランドは、スマートフォンやサーバーなど関連事業のスケールを生かしてメモリ供給を優先的に確保できる立場にある。その結果、規模の小さい競合他社が調達面で不利になり、ベンダー統合が進行しているという
  • 世界シェアは1位Lenovo、2位HP、3位Dell Technologies、4位Apple、5位ASUSと前年同期から順位は変わらないが、成長率で見るとAppleが10.1%増と際立って伸びている。IDCは、新型「MacBook Neo」の投入と同時に市場全体の値上げ動向に合わせて価格を引き上げているにもかかわらず、Appleが競合に対して有利な立場を維持していることが要因だとしている

日本市場での注目点

日本国内でもDRAM・NANDの価格高騰はすでにノートPCや自作PC市場に波及しており、2026年後半から2027年にかけて実売価格の上昇局面が続く可能性が高い。個人・法人を問わずPCの買い替えを検討している場合、「今の価格が底」ではなく「今が比較的安い」というムードで捉えておいた方が実態に近いだろう。

法人のリプレース計画を持つ企業にとっては、メモリ不足が緩和する2028年より前に前倒しで調達するか、価格上昇分をあらかじめ予算に織り込むかの判断を迫られる局面に入っている。個人ユーザーも、型落ちモデルの型番選びで安さだけに飛びつくのではなく、メモリ搭載量に余裕を持たせた構成を優先して検討する価値がある。なお「MacBook Neo」の日本発売時期・価格については本稿執筆時点で公式発表はなく、例年の傾向を踏まえると為替や関税分を上乗せした国内価格になる可能性が高い。

筆者の見解

今回のIDCレポートで個人的に一番引っかかったのは、「クラウドコンピューティングのコスト上昇に伴い、ローカルデバイス上でAI処理を行なう関心が高まっている」というくだりだ。企業でも個人でも、AIはクラウドだけでなくローカルでもガンガン使える環境を整えるべきというのが自分の一貫した立場なので、この関心の高まり自体は歓迎したい流れである。

ただし皮肉なのは、そのローカルAI活用を支えるはずのメモリそのものが品薄・高騰しているという構造だ。せっかくローカル処理への機運が高まっても、肝心のハードウェアがボトルネックになってしまっては本末転倒になりかねない。日本のエンジニア・IT担当者としては、「安いから」で最小構成を選ぶのではなく、AI活用も見据えてメモリに余裕を持たせた構成を早めに確保しておく判断が、向こう数年は合理的だと考えている。

ベンダー統合が進む点についても、スマートフォンやサーバー事業を含めた調達力の差がそのまま競争力の差に直結する局面に入っており、規模を持たない中小ベンダーが厳しい立場に置かれるのは構造的に避けにくい流れだろう。日本のPCベンダーやSIerも、単体のハードウェア調達力だけで戦う時代ではなくなりつつあることを踏まえた戦略転換が求められる。


出典: この記事は メモリ不足でPC出荷減、成長も見込めずベンダー統合進む の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。