米国企業の間で、DeepSeekやZ.ai(智譜AI)といった中国製の生成AIモデルへの乗り換えが急速に進んでいることが、CNBCの報道で明らかになった。背景にあるのは、OpenAIやAnthropicなど米国主要AIラボによるトークン価格の値上がりだ。開発者向けAIモデル仲介プラットフォーム「OpenRouter」経由の米国企業のトークン利用のうち、中国製モデルが占める比率は今年2月8日以降ずっと週30%を超え、最大で46%に達した。2025年前半の平均はわずか4.5%だったことを踏まえると、この半年での変化は劇的だ。
AIスタートアップLindy、Claudeから全面移行
象徴的な事例が、AIスタートアップLindyだ。同社は6月、Anthropicの「Claude」モデルからDeepSeekへ全トラフィックを移行した。Flo Crivello CEOは「コストカーブが崖から落ちるように下がった」と語り、この切り替えだけで数カ月以内に数百万ドルのコスト削減が見込めるという。DeepSeekは2025年初頭に衝撃的なデビューを飾って以来、着実に採用を広げてきたが、性能面での競争力の高さとコストの安さが評価され、実運用での置き換えが現実のものになりつつある。
Z.aiのGLM 5.2、公開1週間で利用量27倍
6月に公開されたZ.aiの新モデル「GLM 5.2」も急速に採用が進む。アプリのデプロイ基盤を提供するVercelによると、公開後1週間で日次トークン利用量は約27倍、利用企業数は約80倍に急増し、2026年にVercelが追跡した中で最速の普及ペースを記録した。Vercelでagentic infrastructureを率いるHarpreet Arora氏は「価格がすべてを物語っている。最高性能が不要なタスクは、要件を満たす最も安いモデルへ自動的に振り分けられ始めている」と指摘する。
米国政府の規制との綱引きも
この流れの背景には、米国政府が自国の最先端AIモデルの流出・拡散を規制しようとする動きもある。6月末にはOpenAIが政府の要請を受けて新モデル群の展開を制限する一方、Anthropicのモデルは政権との緊迫したやり取りの末、輸出規制が解除された。シンクタンクBrookingsのKyle Chan氏は「これまで米国企業はモデルを問わずAI導入を最優先してきたが、いまはコスト意識が強まっている」と分析する。
実務への影響
日本のエンジニアやIT管理者にとっても、この動きは他人事ではない。生成AIエージェントを常時稼働させる「ハーネスループ」的な使い方が広がるほど、トークン消費量は跳ね上がり、コストは無視できない経営指標になる。OpenRouterやVercel AI Gatewayのようなモデルルーティング基盤を使えば、タスクの難易度に応じて呼び出すモデルを動的に切り替える構成が可能になっており、特定ベンダーへの依存を前提にしないアーキテクチャ設計が今後の標準になっていくだろう。
実務での具体的なヒントとしては、(1) モデル呼び出し部分を抽象化レイヤーとして切り出し、モデル差し替えのコストを最小化する、(2) トークン消費とコストを日次でダッシュボード監視する、(3) 簡単なタスクは安価なモデルに、複雑な推論が必要なタスクは高性能モデルにルーティングする、といった設計をあらかじめ組み込んでおくことが挙げられる。ただし中国製モデルは、データの所在地やセキュリティ要件、社内コンプライアンスの観点で採用のハードルが高い組織も多く、金融・官公庁関連システムでは慎重な検討が必要だ。
筆者の見解
今回の件で筆者が注目したいのは、特定モデルの優劣そのものより「コストに応じてモデルを使い分ける仕組みが当たり前になりつつある」という点だ。情報を追いかけて右往左往するより、実際に手を動かして自分の用途に合ったコストパフォーマンスを検証する方がずっと生産的だというのは、AI活用全般に言える筆者の持論と一致する。
中国製モデルの急伸は、性能とコストの両面で選択肢が急速に増えていることの表れであり、企業としては「安いから飛びつく」のでも「知らないベンダーだから排除する」のでもなく、自社のワークフローに合わせて淡々と検証し、必要なら切り替えられる柔軟性を持っておくことが最善策だろう。米国政府の規制の綱引きが示すように、AIモデルの選択はもはや純粋な技術選定の話ではなく、地政学とコストが複雑に絡み合う経営判断になっている。日本の企業もこの変化を「対岸の火事」と見ず、自社のAI活用コストを定点観測する習慣を、今のうちから作っておくべきだ。
出典: この記事は Chinese AI models are gaining ground with U.S. companies as OpenAI, Anthropic costs surge の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。