2026年6月に米ハワイ州ホノルルで開催された国際学会「VLSIシンポジウム(VLSI 2026)」で、キオクシアとSandisk、韓国Samsung Electronicsがそれぞれ、次世代3D NANDフラッシュメモリの要素技術を発表した。詳細はPC Watchの連載「福田昭のセミコン業界最前線」が報じている。

モノリシック積層が壁にぶつかった

3D NANDフラッシュの高密度化は、ワード線(メモリセル)の積層数を増やす「高層化」によって進んできた。従来手法は、デッキ(ティア)と呼ばれるブロックを一枚のウェハ上にモノリシックに(継ぎ目なく一体で)重ねていく方式だった。

しかし同コラムによれば、この手法は限界に近づいている。積層数を増やすほど製造プロセスの難度が上がり、チャンネルスルーホールが長くなることで抵抗が増して動作速度が落ちる。ワード線金属を薄くすれば抵抗が上がり、絶縁膜を薄くすれば隣接セル間の干渉が増して信頼性が下がる。さらにブロック容量の肥大化による読み書き効率の低下、ウェハ反りの増大なども深刻な課題として挙げられている。

解決策は「ウェハを分けて後から貼り合わせる」

そこで登場したのが、数百層のセルアレイを複数枚のウェハ上に別々に作り込み、あとから貼り合わせる技術だ。キオクシア・Sandiskは「Multi Stacked Cell Array(MSA)」、Samsungは「Cell Multi-Bonding(CMB)」と呼んでいる。

VLSI 2026での発表内容は次の通り。

  • キオクシア・Sandisk共同チーム: 218層のセルアレイウェハ2枚(計436層)とCMOS周辺回路ウェハを接合(論文番号T1.4)。さらに17層ウェハ2枚(計34層)とCMOSウェハの3枚接合で4bit/セル(QLC)の多値記憶動作を確認した。3枚接合の3D NANDとしては過去最多の多値記憶動作となる
  • Samsung Electronics: 450層のセルウェハ2枚(計900層)とCMOSウェハを接合(論文番号TFS1.3)。ワード線積層数として過去最多を記録した。155層ウェハ2枚(計310層)とCMOSウェハでは3bit/セル(TLC)動作も確認
  • SandiskとキオクシアはそれぞれTFS1.4、TFS1.5の講演で、1,000層超えを見据えたMSA要素技術も発表している

この方式にはいくつも利点がある。積層数を増やしてもセル電流が一定に保たれる(モノリシック積層では低下する)、ウェハの反りが一定に収まる、セルウェハを並列生産できるため製造期間が短縮できる、消費電力の増加が抑制される、といった点だ。一方で、ウェハ同士の接合には高精度な位置合わせが求められ、積み重ねる過程で下層ウェハの特性が劣化する懸念や、不良ウェハの廃棄によるコスト増も課題として残る。現状は3枚接合が確認された段階で、発展途上の技術と言える。

なお同学会は投稿論文数1,036件、参加登録者1,541名(いずれもハワイ開催として過去最多)と盛況で、業界の関心の高さもうかがえる。

日本市場での注目点

今回の発表で見逃せないのは、日本企業のキオクシア(旧東芝メモリ)がSandiskと組み、900層を記録したSamsungと並ぶトップランナーとして名を連ねている点だ。半導体の「作る力」において、日本が依然として世界最前線にいることを示す事例と言える。

ただし今回発表されたのはあくまで学会レベルの要素技術であり、市販SSDやスマートフォンにすぐ搭載されるものではない。現行の高容量SSDは200〜300層クラスのモノリシック積層3D NANDが中心で、ウェハ接合方式が量産投入されるまでにはまだ数年単位の時間がかかると見るのが妥当だ。とはいえ、この技術が実用化されれば大容量ストレージのビット単価はさらに下がり、PCやスマートフォンだけでなく、データセンター向けストレージのコストにも波及していく。

筆者の見解

今回の話で興味深いのは、業界各社がモノリシック積層という同じ壁にぶつかった結果、「ウェハを分けて貼り合わせる」という共通の解にほぼ同時期に収束していることだ。奇をてらった独自方式に走るのではなく、王道のアプローチに複数社が揃って向かう――これは半導体に限らず、技術選定全般に通じる基本だと筆者は考えている。

またキオクシアが今回のトップランナーの一角にいることは素直に喜びたい。日本のIT業界はソフトウェアやサービスの領域で世界の変化に乗り遅れている面が正直あると筆者は見ているが、半導体製造という「モノづくり」の領域では、まだ十分に世界と戦える力があることを今回の発表は示している。

ストレージの大容量化・低コスト化は、AIの学習データやローカルLLMのモデル重みを手元で扱う環境を後押しする基盤技術でもある。地味に見える積層技術の進化が、数年後のAI活用の裾野を広げることにもつながっていく。派手なニュースではないが、腰を据えて追いかける価値のある分野だと思う。


出典: この記事は 【福田昭のセミコン業界最前線】1,000層超えを本格的に目指し始めた3D NANDフラッシュ の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。