Microsoftは、SharePointに組み込まれたAI機能「AI in SharePoint」に対して、業務固有の処理手順を自然言語で定義・再利用できる「カスタムスキル(Custom Skills)」機能を追加し、2026年7月初旬のGA(一般提供)完了に向けてロールアウトを進めている。

カスタムスキルとは何か

カスタムスキルとは、SharePoint上のAIに対して「この種の文書を処理するときはこう動け」という手順を事前に登録しておく仕組みだ。たとえば「コンプライアンス審査書類を受け取ったら、〇〇の観点でチェックして、標準フォーマットで結果をまとめる」といった複数ステップの処理を、自然言語で記述するだけで定義できる。

作成したスキルはMarkdown形式(.md)のファイルとして、各SharePointサイトの「Agent Assets」ライブラリ(/Agent Assets/Skills/<スキル名>/SKILL.md)に保存される。ユーザーはスキルを名前で直接呼び出すことも、クエリの内容に応じてAIが自動的に適切なスキルを選択することも可能だ。

技術仕様と権限モデル

この機能で押さえておくべきポイントを整理する。

誰が作成・利用できるか

  • 作成: 対象SharePointサイトの編集権限(Edit)を持つユーザー
  • 利用: 閲覧権限(Read)以上を持つユーザー
  • テナント管理者による一括オン/オフの設定は存在せず、デフォルトで有効

できること・できないこと

  • できること: SharePoint内のコンテンツ理解、リスト操作、フォルダ整理、その他SharePoint標準アクション
  • できないこと: 外部システムへの接続、カスタムコードの実行

ガバナンス面

  • スキルはMarkdownファイルなので、既存のSharePoint権限ポリシー・保持ポリシー・コンプライアンスポリシーがそのまま適用される
  • Agent Assetsライブラリの権限継承を切ることで、スキルの作成・利用者を絞り込む運用も可能

なぜこれが重要か——日本のIT現場への影響

これまで「AIに業務ルールを覚えさせる」には、Copilot Studioや外部ツールでのプロンプト管理が必要だった。それなりの技術知識と管理コストがかかる上、SharePointのドキュメント処理と組み合わせる際の連携も煩雑だった。

カスタムスキルはその障壁を大幅に下げる。SharePointを日常的に使っているパワーユーザーやサイトオーナーが、自分たちの業務ルールをそのままAIに教えられる。「AI活用はIT部門が管理するもの」という従来の構図から、「現場が自分でAIの振る舞いをカスタマイズする」構図へのシフトが、Microsoft 365の中で静かに始まっている。

とくにSharePointをイントラネットや文書管理基盤として活用している企業では、コンプライアンスチェック・契約書レビュー・稟議書の形式確認といった繰り返し業務への適用が現実的な最初のステップになるだろう。

実務での活用ポイント

管理者が今すぐやるべきこと

  • 権限の棚卸し: 編集権限を持つユーザーが意図せずスキルを量産するリスクがある。Agent Assetsライブラリの権限継承を見直し、「スキルを作れるのは誰か」を明示的に決めておく
  • 命名規則を決める: スキルはMarkdownファイルとして蓄積されていく。ファイル名・説明文の命名規則をあらかじめ整備しないと、後で「誰が何のために作ったスキルか」がわからなくなる
  • ガイドラインの更新: 社内のAI利用ポリシーや情報セキュリティガイドラインに、スキルの作成・管理に関する項目を追加しておく

エンジニア・パワーユーザーが試すべきユースケース

  • 社内規程や用語集を参照しながら文書を審査するスキル
  • 入力文書のフォーマットを標準テンプレートに変換するスキル
  • 特定のリストやフォルダを整理・分類するスキル

まずは繰り返し頻度が高く、「やり方が決まっている」業務から試すのが鉄則だ。

筆者の見解

この機能の設計思想は正直「悪くない」と思っている。スキルをMarkdownファイルとして既存のSharePoint権限管理に乗せた点は、新しいガバナンスレイヤーを作らずに済むという意味で堅実だ。「作れる人と使える人を分けて、既存の権限モデルで制御する」というアプローチは、エンタープライズ現場の実情をよく理解している設計だと感じる。

一方で、「外部システム接続不可・カスタムコード実行不可」という制約は、現時点では仕方ないとしても、今後どこまで拡張できるかが肝心だ。SharePoint単体で閉じた業務には十分機能するが、基幹システムや外部APIと連携したい場面ではすぐに壁にぶつかる。そこはCopilot StudioやAzure AI Foundryとの役割分担を明確にしてほしいところだ。

MicrosoftがSharePoint内AIを「現場がカスタマイズできるプラットフォーム」として育てようとしている方向性は支持したい。あとはその方向性を、CopilotやFoundryなどの周辺機能と一貫したストーリーで説明しきる力があるかどうか。ユーザーが「どれを使えばいいのか」と迷わずに済む整理を、早めに出してほしいと思っている。


出典: この記事は Extending AI in SharePoint using custom skills — GA rollout in progress の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。