eVTOL(電動垂直離着陸機)による「空のUber」実現を競う米国スタートアップ群が、相次ぐ法廷闘争に足をすくわれている。The Vergeのコラムニスト Andrew J. Hawkinsが2026年6月21日付けの週刊コラム「The Stepback」で、Joby Aviation・Archer Aviation・英Vertical Aerospaceの三者を巻き込む訴訟の連鎖を詳細に報じた。

三つ巴の訴訟戦争

The Vergeのレポートによると、サンフランシスコ湾岸に拠点を持つJobyとArcherは、お互いが「空のUber」の座を争う宿命のライバルだ。2025年11月、Jobyは元従業員がArcherへ転職する際に技術情報や利害関係者との通信内容を持ち出したとして、企業スパイ行為でArcherを提訴。「Archerはその盗まれた情報を堂々と利用した」とJobyは訴状で主張している。

Archerは2026年3月に反訴に転じ、Jobyが中国から輸入した航空機部品を「ヘアクリップ」「靴下」などの日用品として虚偽申告し、米国政府を欺いたと糾弾した。この反訴が奏功したのか、翌4月には米国際貿易委員会(ITC)がJobyの中国との関係についての調査を開始。Hawkinsのレポートはこの調査が「Jobyが目指す2028年のエアタクシーサービス開始を遅らせる可能性がある」と指摘している。

さらに2026年2月にはArcherが英国のVertical Aerospaceへも訴訟を拡大。Archerの「Midnight」とVerticalの「Valo」が酷似しているとして特許侵害を訴えた。両機ともに4人乗り・チルトロータープロペラ搭載・巡航速度時速150マイル・最大航続距離100マイルという仕様が重なる。

なぜ今、この訴訟が危ういのか

Hawkinsが強調するのは、これらの訴訟が業界にとって最も危うい時期に起きているという点だ。eVTOL各社の株価はここ数年で大幅に下落しており、型式証明取得のスケジュールは繰り返し後ろ倒しになっている。予算は縮小し、タイムラインは延びる一方で、投資家は認証取得の困難さに加え、訴訟費用という新たな出費への懸念を強めている。

「潜在的に数十億ドル規模」(Hawkins)とされる新市場を巡る知財・競合・人材争奪戦が激化しており、業界全体の信頼性を傷つけるリスクが現実のものになりつつある。

日本市場での注目点

日本ではJobyがANAホールディングスと提携関係にあり、国内エアタクシー市場への参入を視野に入れている。しかし、ITCの調査が長引けばJobyの日本展開にも影響が及ぶ可能性がある。大阪・関西万博(2025年)でのデモ飛行を経て機運が高まっていた「空飛ぶクルマ」への国内期待感に、水を差す展開になりかねない。

国内勢ではスカイドライブやテトラ・アビエーションが開発を進めており、海外大手の混乱が国内市場の動向にどう影響するかも注目点だ。現時点では日本市場向けの具体的な価格・発売時期は未公表。

筆者の見解

新技術がパイオニア市場を形成する局面で、知的財産を巡る訴訟が頻発するのはある意味必然だ。スマートフォン黎明期のApple対Samsungを見るまでもなく、新市場の争奪戦では法廷が武器になる。

ただしeVTOL業界の難しさは、型式認証という「参加者全員が超えなければならない巨大な壁」が存在する点にある。訴訟に経営資源を注ぎ込む間は、その壁を超えるための開発・試験・認証取得活動が滞る。競合を叩くことに熱心なあまり、業界全体の信頼性醸成という共通課題がおろそかになれば、最終的には誰も「空のUber」を実現できないという皮肉な結末になりかねない。

とりわけJobyの中国部品問題は地政学リスクとして注視に値する。技術的な完成度とは無関係に、認証や事業展開を根底から揺るがしかねない。「2028年サービス開始」というJobyの目標がどこまで現実的なのか、法廷の動向を慎重に見極める必要があるだろう。


出典: この記事は Electric air taxis are stuck in the courtroom の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。