米調査報道メディアProPublicaとArs Technicaは、SpaceXの非公開投資家リストを入手し、中国・香港・ロシアを拠点とする12人以上の投資家が、同社の株式公開(IPO)以前に秘密裏に出資していたことを報じた。出資者の中には中国軍事請負業者との関係が指摘される人物も含まれている。

なぜこの問題が注目されるのか

SpaceXは米国防総省のスパイ衛星製造をはじめ、安全保障に直結する政府事業を担う企業だ。中国からの投資は法律上は禁止されていないものの、外国投資を安全保障の観点から審査するCFIUS(対米外国投資委員会)の厳格な監視対象となる。

SpaceXは先週、史上最大規模のIPOを実施し、イーロン・マスク氏は世界初のトリリオネア(資産1兆ドル超)となった。同社はIPO時点で中国・香港の投資家を「規制・コンプライアンス上のリスク」を理由に排除したとBloombergが報じているが、今回の調査はその数年前の状況を浮かび上がらせた。

海外レポートのポイント:何が問題視されているか

ProPublicaの報告によると、投資は2018〜2021年の間に、米国の仲介業者「Tomales Bay Capital」を通じて行われ、1件あたりの規模は80万〜4,000万ドルと比較的小規模だ。

特に注目されているのが、北京を拠点とするベンチャーキャピタル「MPCi」の共同創業者、David Su氏に関連するエンティティだ。Su氏の関連企業は2020年にSpaceXファンドへ1,500万ドルを出資したとされる。

ProPublicaが指摘する懸念事項:

  • MPCiはSpaceXの中国競合他社に出資してきた実績がある
  • MPCiが出資した衛星企業2社は、ロシアの民間軍事組織ワグネルへの支援を理由に米政府の制裁リストに登録されている
  • そのうち1社は今月改めて、イランによる米軍攻撃への加担を理由に追加制裁を受けた
  • 中国科学技術部のウェブサイトには、Su氏の会社が国家主導の航空宇宙産業育成プロジェクトのパートナーとして掲載されている

MPCiはこれに対し、「Su氏はSpaceXの非公開情報を一切受け取っていない」と声明を発表。Su氏はシンガポール国籍でシンガポールに居住しているとしている。なおProPublicaは、Su氏が違法行為を行ったという証拠はないとも記している。

インディアナ大学教授でかつて国務省の外国投資審査に携わったSarah Bauerle Danzman氏は「中国の投資家が競合に情報を流せる立場にある場合、国家安全保障上の懸念が生じる」とArs Technicaの取材に応じた。

日本市場での注目点

SpaceXはStarlinkを通じて日本市場でも強い存在感を持ち、IPO後は日本の機関・個人投資家にとっても無縁ではない銘柄となった。今回の報道が提起するのは、デュアルユース技術(軍民両用技術)を保有する企業への外国投資とガバナンス透明性という問題だ。

日本でも重要インフラや防衛関連技術を持つ企業への外国投資審査は年々強化されており、宇宙・衛星分野は特に感度が高い領域となっている。SpaceXが上場後にどのような株主管理・情報管理体制をとるかは、日本の投資家・政策立案者双方が注視すべき点だろう。

筆者の見解

今回の報道が突きつけるのは「仲介業者を経由した迂回投資は、事後審査の盲点になりうる」という現実だ。SpaceXはIPO時点で中国・香港投資家を排除する判断を下した。規制対応としての合理性はあるが、問題はその数年前に既に投資が完了していたという点にある。

CFIUSのような審査の仕組みは、情報が流れた後では機能しない。宇宙開発が地政学的競争の最前線となっている以上、投資規制と情報管理の仕組みをテクノロジーの進化に合わせてアップデートし続けることが不可欠だ。今回の報道をきっかけに、米議会でより厳格な外国投資規制の議論が再燃する可能性は高く、宇宙・防衛技術に関わる企業の株式公開プロセス全体に影響が及ぶ展開も予想される。


出典: この記事は Before SpaceX IPO, investors in China secretly acquired stakes の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。