米国司法省(DOJ)は2026年6月13日、非同意AI生成ヌード画像を公開していたウェブサイト「CFAKE.com」および「SOCFAKE.com」のドメインを差し押さえたと発表した。2025年5月に成立したTAKE IT DOWN法に基づく初の公式ドメイン差し押さえ事例とみられる。
CFAKE・SOCFAKEとは何だったのか
これらのサイトは、政治家・女優・アスリート・ジャーナリスト・王族など複数国の著名女性を被写体にした、AI生成の性的ディープフェイク画像・動画を大量に公開していた。DOJの声明によると、対象には複数国のファーストレディや王族も含まれていた。
ディープフェイクとは、既存の写真・動画・音声から本人が実際には行っていない行動や発言を「したかのように」見せるAI生成メディアの総称だ。近年は生成AIの精度向上に伴い、非同意ポルノ(NCII: Non-Consensual Intimate Imagery)の生成ツールとして悪用されるケースが急増している。
国際連携捜査の全容
今回の捜査はイタリア郵便・サイバーセキュリティ警察が米当局に情報提供したことで始まった。イタリアは2025年10月に被害申告を受理し、国内でのアクセス遮断命令を取得しながら捜査を継続。その後、証拠が米国経由でフランスに共有され、フランス検察が独自に捜査を展開。2026年6月10日にはフランス・ニースで容疑者が逮捕され、関連する暗号資産も押収された。
ドメイン差し押さえには米国土安全保障省捜査局(HSI)ニュージャージー支局、DOJコンピュータ犯罪・知的財産部門、フランス国家警察、パリ検察局、イタリア郵便・サイバーセキュリティ警察が参加した。まさに多国間連携の成果だ。
TAKE IT DOWN法とは
2025年5月にトランプ大統領が署名したTAKE IT DOWN法(47 U.S.C. § 223)は、本人の同意を得ない性的画像・ディープフェイクの公開を連邦犯罪として定めた法律だ。特に注目すべき条項が、48時間以内の削除義務だ。被害者からの申告を受けたオンラインプラットフォームは、48時間以内に当該コンテンツを削除しなければならない。
超党派で支持されたこの法律は、メラニア・トランプ大統領夫人が「Be Best」活動の一環として推進したことでも知られる。
違反者には罰金または禁固刑、もしくはその両方が科せられる。
実務への影響——日本のエンジニア・IT管理者にとっての意味
プラットフォーム事業者は対岸の火事ではない。日本でもユーザー投稿型コンテンツを扱うサービスは多い。TAKE IT DOWN法は米国法だが、サービスが米国ユーザーを対象とする場合、あるいは将来的に日本でも類似法制が整備された場合、同等の削除対応義務が生じうる。48時間以内の削除を確実に実現するインシデント対応フローと通報受付窓口の整備は、今から取り組んでおく価値がある。
AI生成コンテンツのリスク管理は技術的課題だ。生成AI機能をサービスに組み込む際は、悪意ある利用(NCII生成・なりすまし・フィッシング)を想定した入力バリデーションとコンテンツフィルタリングが不可欠になっている。「使えないようにする」禁止アプローチではなく、正規用途を便利にしながら悪用の検出・遮断を組み込む設計が求められる。
暗号資産の押収は収益化阻止の観点から重要。今回フランス当局が運営者の暗号資産を押収した点は見落とせない。違法コンテンツビジネスの収益モデルを断つアプローチが国際的に定着しつつある。
筆者の見解
セキュリティ系の話題は正直好みではないが、今回の摘発は純粋に技術・法制度・国際連携の三つが噛み合った好例として評価したい。
注目したいのは48時間削除義務という設計思想だ。「禁止する」のではなく「通報されたら48時間以内に対応しなければ違法」という仕組みにすることで、プラットフォームに構造的な責任を負わせている。これは「禁止より仕組みを作れ」という考え方に近く、実効性の高いアプローチだと思う。
一方で課題もある。有名人を対象にした大規模サイトは摘発しやすいが、一般人を標的にした小規模なケースや分散型プラットフォームへの対応はまだ十分ではない。法整備と技術的な検出手段が追いつくまでの間、被害は続く。
日本では現時点でTAKE IT DOWN法に直接相当する法律はないが、プロバイダ責任制限法の改正議論が続いており、類似の方向性が検討されている。日本のIT事業者も「法律が通ってから考える」ではなく、今のうちに対応フローを整えておくのが現実的な判断だろう。
国際連携捜査の精度が上がり、暗号資産追跡技術が成熟してきた今、「どこかのサーバーに置けば大丈夫」という時代は終わりつつある。それ自体は良い変化だ。
出典: この記事は DOJ seizes CFAKE, SOCFAKE deepfake nude sites under TAKE IT DOWN Act の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。