Microsoftは2026年6月のProduct Terms更新で3ヶ月連続となるAIライセンス条件の大幅改定を実施した。Copilot StudioのCustomer Copyright Commitment(CCC)適用指定の削除、Agent 365の前提ライセンス要件の明文化、Azure Local向けAzure Hybrid Benefitの適用縮小など、企業の調達・コンプライアンス担当者に直結する変更が複数含まれている。

3ヶ月連続の改定——何が動いているのか

直近の動きを振り返ると、3月はAzure Arcの簡素化、4月はハイリスクAIコンテンツへのガードレール強化、5月はAIエージェントへのマルチプレクシング規定拡大とRPA出力のAIトレーニング禁止、そして6月は「Azure AI Services」という包括定義の新設だ。Azure Foundry経由でデプロイされるすべてのモデル(サードパーティ含む)にEnterprise AI Services行動規範が適用される形になった。

個別のモデルプロバイダー条件は外部ドキュメントページに集約された。これは管理の一元化という観点では合理的だが、追跡すべきドキュメントが増えることも意味する。

最重要変更①:Copilot StudioのCCC指定が告知なし削除

Customer Copyright Commitment(CCC)とは、AI生成コンテンツが第三者の著作権を侵害した場合の法的リスクをMicrosoftが顧客に代わって負う知的財産補償制度だ。「MicrosoftのAIが作ったものはMicrosoftが守る」という企業向けの大きな売り文句でもあった。

6月更新前、Power Platform Service Specific TermsにはCopilot Studioが「Covered Product(対象製品)」として明記されていた。これが今回の更新でひっそりと削除された。変更説明には一切記載がない。

重要な補足として、CCC自体の保護が消えたわけではない。CCCのRequired Mitigationsページ(最終更新:2026年3月20日)にはCopilot Studioが引き続き掲載されており、保護は継続している。ただしProduct Terms本文から消えたということは、CCCドキュメントページを個別に監視していなければ変更を見落とすリスクがある。さらに、外部モデルをCopilot Studioに接続した場合、そのモデルの出力はAzure OpenAI経由でなければCCC対象外になる点も忘れてはならない。

最重要変更②:Agent 365のライセンス前提条件が明文化

Agent 365の利用には以下のいずれかが必要と初めて明示された。

  • Microsoft 365 E5
  • F5 Defender and Purview
  • Business Premium

裏を返せば、Microsoft 365 E3、Business Basic、Business Standardでは利用できない。E3のみでAgent 365活用を検討していた組織には追加投資が求められる。段階的なエージェント活用計画を描いていた場合、ライセンス計画の見直しが必要だ。

その他の注目変更点

Azure Hybrid Benefit for Azure Localの適用縮小:従来は比較的広く適用できたが、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)構成に限定された。Azure Localを使ったオンプレミスコスト最適化を計画している組織はアーキテクチャ要件を再確認すること。

SPUR(サービスプロバイダー利用規約)へのAIトレーニング禁止拡大:5月のRPAトレーニング禁止がSPLA(サービスプロバイダーライセンス契約)ホスティング会社向けに拡大。Office Suites、Project、Visio経由で処理したデータをAIモデルのトレーニングに使うことが禁止された。

非公表変更:Customer LockboxがCompliance Services一覧から削除され、「Microsoft Discovery」という未告知サービスがLimited Accessレジスターに追加された。前者は何らかの移行が背景にある可能性があり、後者はまだ詳細不明だ。

実務への影響——日本のIT部門がとるべき行動

今すぐやること:

  • CCCドキュメントページを定期監視に入れる。Product Terms本文とCCC文書の2か所を追わなければ変更を見逃す構造になった
  • Agent 365の展開計画がある場合、既存ライセンスでカバーされているか即座に確認。E3ベースの組織は追加費用試算が必要
  • Azure Local活用中の組織は、Azure Hybrid BenefitがHCI構成前提になったことを確認し、適用条件を再評価する
  • SPLAでOffice等をホスティングしている事業者は、AIトレーニング用途のデータ利用が制限されていないかポリシーを点検する

特に見落とされやすいのが「告知なし変更」への対応だ。企業のライセンス管理を担当している場合、毎月初のProduct Terms差分確認をチームの業務プロセスに組み込むことを強く勧める。

筆者の見解

今回の一連の改定で最も気になるのは、Copilot Studioに関するCCC指定の告知なし削除だ。保護自体は継続しているとはいえ、企業が自社のリスク状況を把握する手段を静かに変えてしまうのは、エンタープライズとの信頼関係という観点でもったいない判断だと感じる。契約管理の観点からは「Product Termsに書いてあるか否か」は重要であり、透明性を重んじるMicrosoftのエンタープライズブランドの強みと矛盾する。

AI関連の条件改定が月次でこれだけの頻度で行われていること自体は、市場の動きに対応しようとする積極性の表れでもある。ただし改定速度が速ければ速いほど、追跡コストは顧客側に転嫁される。Microsoft Foundry経由で複数のAIモデルを統合管理できるプラットフォームの方向性は正しいと思っているだけに、ライセンス体系もその信頼性にふさわしい透明性と安定性を持ってほしいと思う。

Agent 365がE5以上要件というのも、現実的なエンタープライズ展開を考えると少々高いハードルだ。段階的な移行期間を設けるか、機能セットをライセンスティアで分ける設計があればより多くの組織がエージェント活用に踏み出せるはず。Microsoftのプラットフォームとしての包括力は本物なので、その力を活かした間口の広いアプローチを期待したい。


出典: この記事は Microsoft Product Terms June 2026: What Changed の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。