Googleは2026年6月中に「Gemini 3.5 Pro」を一般公開(GA)する予定で、200万トークンのコンテキストウィンドウと「Deep Think」推論モードを搭載し、従来のGemini Ultraが担っていた最上位ポジションを統合した形で投入される。Vertex AIでの限定プレビューはすでに開始されており、エンタープライズ向けの評価が着々と進んでいる。

200万トークンコンテキストが意味するもの

コンテキストウィンドウ200万トークンとは、数十万行規模のコードベース全体や、分厚い技術仕様書を丸ごと1回の会話に詰め込める容量に相当する。業界水準と比べても最大クラスの数字だ。

理論上は、大規模なコードレビュー、長大なドキュメント群の横断検索、膨大な会議録の一括要約といった用途で強みを発揮できる。特に企業システムの移行プロジェクトや、複数の仕様書・契約書を横断して処理したい場面では、魅力的なスペックと言えるだろう。

ただし注意が必要なのは「Lost in the Middle」問題だ。コンテキストウィンドウが大きくても、実際に長文の後半部分をモデルが正確に参照できるかは別の話であり、実際に試してみるまでは過信は禁物だ。

Deep Think推論モードとは

「Deep Think」は、複雑な問題に対して段階的な推論(Chain-of-Thought)を深く掘り下げて行う機能だ。数学・論理推論、複雑な多段階判断などでパフォーマンスが向上することが期待されており、拡張推論系モデルの業界トレンドに沿った強化となる。

リアルタイム応答よりも、時間をかけて高精度な出力が求められるバッチ処理的な用途——大量の技術文書の構造化、法務・契約書レビューの下処理、複雑な要件定義の整理——などで本領を発揮しやすいと見られる。

Ultraティアを統合した価格体系

Gemini 3.5 ProはGemini Ultraの役割を吸収し、最上位モデルとして一本化される。料金は入力が約$15/1Mトークン、出力が約$60/1Mトークン前後が見込まれている。

Vertex AIを通じたエンタープライズ契約では割引交渉の余地もあるが、200万トークンを頻繁に使用するユースケースではコストが急増しやすい。入力設計の最適化——どこまでをコンテキストに入れるかのチューニング——がコスト管理の要になるだろう。

実務への影響

日本のエンジニア・IT管理者がGemini 3.5 ProのGA後に検討すべきポイントを整理する。

Vertex AI経由のエンタープライズ統合:Google Workspaceをグループウェアの基盤にしている企業では、Vertex AI上でGemini 3.5 Proを試すことが自然な流れとなる。既存の認証・セキュリティポリシーとの親和性が高い点は見逃せない。

200万トークンの使いどころを設計する:コンテキストウィンドウが大きいほどレイテンシとコストの両方が上がる。「詰め込めばいい」ではなく、何をどの順番で入力するかの設計が精度とコストに直結する。

Deep Thinkはオフライン・バッチ向けに検討:推論モードは応答速度が遅くなる傾向がある。リアルタイムのチャットUI用途ではなく、夜間に大量の技術文書を処理するような非同期ワークフローに組み込む形が現実的だ。

マルチモーダル活用の可能性:Gemini 3.5 Proは深度のあるマルチモーダルタスク(図表・設計書の読み取り、動画コンテンツの解析など)への対応も謳っている。設計書や製品マニュアルを大量に扱う製造・建設・医療系の現場では特に評価する価値がある。

筆者の見解

Gemini 3.5 Proのスペックシート上の数字は確かに印象的だ。200万トークンのコンテキストウィンドウは実用の天井を大幅に引き上げており、Deep Thinkによる推論強化も現在のAI競争の本流を押さえている。

筆者が一貫して重視しているのは、「スペックと実使用感は別物」という原則だ。大きなコンテキストに何でも詰め込めばいいわけではなく、実際の業務フローの中でどれだけ手間を減らし、成果の質を上げられるかが本質的な評価軸になる。GAになったタイミングで自分の業務課題に当ててみて判断するのが最も正確だ。

Google AI / Vertex AIをすでに組織の中心に据えている企業にとっては、今回のGAは本格評価の好機だろう。一方、ツール選定を検討中の方には「まず一つ触って使いこなす」という姿勢を勧めたい。スペック競争の数字を横並びで比較するよりも、自分の仕事の文脈で実際に試した経験の蓄積の方が、長期的にはるかに価値が高い。


出典: この記事は Gemini 3.5 Pro Approaches June Launch With 2M Token Context Window and Deep Think Reasoning Mode の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。