リチウムイオン電池の発火・爆発事故が世界的な問題となるなか、The Vergeの副編集長・Thomas Rickerが「全固体電池はまだ準備できていないが、ジェル電池は違う」と題するコラムを公開した。「半固体電池(Semi-Solid-State Battery)」が実用段階に入りつつあることを詳報している内容だ。
なぜ今、バッテリーの安全性が問われているのか
従来のリチウムイオン電池は液体電解質を使うため、物理的ダメージや過充電によって「熱暴走(Thermal Runaway)」が起きやすい構造的な弱点を抱えている。Rickerの記事によると、2025年には米国消費者製品安全委員会(CPSC)がAnker・Baseus・INIUなど大手ブランドを含む約190万個のモバイルバッテリーをリコール。さらに数万台規模のe-bikeも発火リスクで回収対象となり、一部のRad Power Bikesモデルでは「すぐ使用を中止せよ」という異例の警告も発令された。
「全固体電池(Solid-State Battery)」は10年以上にわたり「もうすぐ実用化」と期待されてきた救世主的技術だが、直近ではDonut Labが宣伝していた「奇跡の固体電池」の主張が徹底的に否定されるなど、依然として商用化への道は険しい。
「半固体電池」とは何か——The Vergeの解説より
The Vergeのレポートが伝えるところによれば、半固体電池は液体でも固体でもないゲル状の電解質を採用するバッテリーだ。アノード・電解質・カソードという基本構造は従来と変わらず、製造ラインも既存設備をほぼ流用できるため、コスト面での移行障壁が低いことが大きな特長とされている。
The Verge(Ricker評価)が挙げる良い点
- 熱暴走リスクが大幅に低減。ハンマー・釘・ドリルで破壊しても液体電解質のように発火しない
- 同サイズで従来品より高いエネルギー密度を実現
- 寒冷地での放電性能が向上
- 寿命が従来リチウムイオンの2〜3倍とされる
- 既存の製造ラインで生産可能なため、大規模移行のハードルが低い
気になる点
- 従来品より価格が高め
- 現時点では製品展開がまだ限られている
実際に登場した製品
Kuxiuが2025年4月に「世界初の半固体電池搭載モバイルバッテリー」を発売し、Thomas Ricker本人がレビューを実施。記事執筆時点では複数の追加ブランドが同種製品を展開しているという。
e-bikeの分野では、米Ride1Upが2025年5月に「Revv1 EVO」を発表。「世界初の半固体電池搭載電動自転車」を謳い、1,040Whという大容量バッテリーを搭載している。
日本市場での注目点
日本でも近年、モバイルバッテリーや電動アシスト自転車の発火事故が相次いでおり、PSEマーク取得の厳格化とともに安全性への関心が高まっている。半固体電池はこのニーズに直接応える技術だ。
現時点での日本国内における半固体電池製品の流通は限定的だが、中国メーカーを中心に製品数は増加傾向にある。大手ブランドが安全性向上に取り組むなか、今後のラインナップ更新で半固体電池採用製品が徐々に増えていくことは自然な流れだろう。価格面では同容量の従来品に比べて2〜3割高めになる見込みだが、長寿命・安全性の向上を考慮すれば十分に検討に値するコストパフォーマンスだ。
競合技術としての本命である全固体電池については、国内でもトヨタをはじめとする自動車・電池メーカーが研究開発を続けているが、コンシューマー向け製品への搭載は依然として数年単位で先の話となる見込みだ。
筆者の見解
「完璧な未来技術を待つよりも、今使える現実的な改善版を積極的に採用する」——今回の半固体電池の動向はこの原則を改めて示してくれる好例だ。
技術的に注目すべきは、「既存の製造ラインを変えずに安全性を段階的に向上できる」という点だ。全固体電池が普及するには材料コスト・製造プロセスの根本的な変革が必要なのに対し、半固体電池はその移行期間中の現実解として機能する。発火という明確なリスクに対して、インフラを大きく変えずに対処できるアプローチは、エンジニアリングの観点からも合理的な判断だ。
日本の消費者・エンジニアへの実践的な示唆としては、モバイルバッテリーの次回購入時に半固体電池対応モデルを選択肢に加えることを勧めたい。価格差が縮まるにつれて、安全性・長寿命というメリットはより際立ってくるはずだ。電動アシスト自転車を検討している方も、今後は半固体電池搭載モデルの登場を視野に入れておく価値がある。
出典: この記事は Solid-state batteries still aren’t ready, but gels are の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。