Microsoftは2026年6月11日、Power Platformの大型月次アップデートを公開し、AIエージェントの「クローズドループ学習」機能をはじめ、コネクタガバナンスの強化、インベントリAPI、RPAデバッガーのバージョン比較対応など、エンタープライズ向けの機能が一挙に追加された。
今回のアップデートの主要機能
クローズドループエージェント学習
今回の目玉機能が「クローズドループエージェント学習(Closed-loop Agent Learning)」だ。AIエージェントが実行した処理の結果をフィードバックとして取り込み、次回以降の意思決定に反映させる仕組みである。
従来のPower Automateフローは「設計者が明示的に定義したロジックを実行する」だけだったが、クローズドループ学習を組み込んだエージェントは実行結果を自分で評価して改善していく。受注データの分類精度を自ら向上させたり、異常検知のしきい値をビジネスの実態に合わせて動的に調整したりするユースケースが想定される。
コネクタガバナンスとインベントリAPI
Power Platformではサードパーティ製「コネクタ」を通じて数百のサービスと連携できるが、企業IT管理者の長年の悩みは「どのコネクタが使われているか把握できない」「未承認のコネクタがセキュリティリスクになる」という点だった。
今回追加されたコネクタガバナンス機能とインベントリAPIにより、テナント内で使用中のコネクタを一覧化し、承認・禁止のポリシーをAPIレベルで制御できるようになった。さらにCMDB(構成管理データベース)との連携により、コネクタの使用状況を既存の資産管理ツールに統合できる。ServiceNowやその他のITSMツールと組み合わせれば、Power Platform全体のガバナンスを一元管理する基盤になりえる。
RPAデバッガーのバージョン比較対応
Desktop Flow(デスクトップ自動化)のデバッガーが強化され、フローの異なるバージョン間での差分をビジュアルに比較できるようになった。更新後に挙動が変わった際の原因特定が大幅に効率化される。
実務では「誰かが修正したフローで別の担当者のワークフローが動かなくなった」というトラブルが頻繁に発生する。バージョン比較機能はそうした現場課題を直接解決する実践的な強化だ。
実務への影響
IT管理者へ: コネクタガバナンスのAPIとCMDB連携は、ゼロトラスト戦略の観点でも重要だ。使用中のコネクタが把握できていない状態は、認可されていない接続経路が存在するリスクと同義である。今回の機能を活用して、まず「現状の棚卸し」から着手することを強く推奨する。
開発者・市民開発者へ: クローズドループ学習を活用するには、エージェントに「何を正解とするか」を明確に定義するフィードバックループの設計が不可欠だ。「なんとなくAIに任せる」ではなく、ビジネスロジックの評価軸を先に定義してからエージェントを構築する順番が重要になる。
全社展開を検討している企業へ: インベントリAPIはPower Platformガバナンスの「見える化」に直結する。CISOや情報システム部門が全社展開に慎重なケースの多くは「何が動いているかわからない」という不安からきている。このAPIがその心理的障壁を下げる可能性がある。
筆者の見解
Power Platformのアップデートサイクルは一貫して速く、今月も企業が実際に困っているポイントを正面から突いた機能が揃った印象だ。特にコネクタガバナンスとCMDB連携は「自動化を広げたいが統制が怖い」というIT部門の典型的なジレンマに対する、現実的な回答になりえる。
クローズドループ学習については、「エージェントが自ら学習する」という言葉のインパクトに対して、実際の運用設計は丁寧に行う必要がある。学習の方向性を定義するのは結局人間であり、フィードバックループの品質がエージェントの品質を決める。「AIに任せたら勝手に良くなる」という期待値のズレは、現場でしっかり管理しなければならない。
もったいないと感じるのは、これだけ実用的な機能が揃っているにもかかわらず、日本の大企業では「Power Platform=市民開発のおもちゃ」という認識がまだ残っているケースがあることだ。エンタープライズグレードのガバナンス機能が整ってきた今、その認識をアップデートする絶好のタイミングに来ている。Microsoftはこの領域できちんとした実力を持っているのだから、現場がその実力を正当に評価できる環境を作っていくことが重要だ。
出典: この記事は What’s New in Power Platform: June 2026 Feature Update の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。