OpenAIは2026年5月7日、ChatGPTに「Trusted Contact(信頼できる連絡先)」機能を追加した。会話中に自傷・自殺に関する言動が検出された際、あらかじめ登録した家族や友人に自動でアラートを送信する安全機能だ。相次ぐ訴訟を受けた法的プレッシャーへの対応という側面もあるが、AIとメンタルヘルスの交差点において業界全体が注目すべき一手でもある。

Trusted Contactとは何か

Trusted Contact機能は、ChatGPTの成人ユーザーが事前に「信頼できる連絡先」(家族・友人など)を登録しておくと、会話内容が自傷・自殺のリスクを示すと判断された場合に、その連絡先へ自動通知が届く仕組みだ。

通知はメール・SMS・アプリ内通知のいずれかで届き、「様子を確認してほしい」という趣旨の簡潔な文面となっている。会話の詳細な内容は含まれず、プライバシーへの配慮も施されている。

検知から通知までのフロー

OpenAIの安全システムは自動化と人間によるレビューを組み合わせた二段階構成を採用している。

  • 特定のキーワード・フレーズやコンテキストが自動検知される
  • 検知情報が人間の安全チームへ転送される
  • チームが「深刻なリスク」と判断した場合のみ、登録済み連絡先へアラートが発信される

OpenAIは「通知を受け取ったケースは1時間以内に人間がレビューする」と述べている。完全自動ではなく、人間の判断を介在させることで誤報を抑制しようとしている点は重要な設計上の判断だ。

背景:相次ぐ訴訟と業界全体の課題

この機能導入の背景には、OpenAIが直面している一連の訴訟がある。ChatGPTとの会話後に自殺した利用者の家族が、「チャットボットが自殺を促した、あるいは具体的な計画立案を手伝った」として訴訟を提起しているのだ。

2025年9月には未成年向けのペアレンタルコントロール機能(保護者へのリスク通知)が先行導入されており、今回のTrusted Contactはその成人版にあたる。自動化アラートによる専門機関への誘導機能も以前から実装されていたが、今回は「人間のネットワーク」を組み込んだ点が新しい。

実務への影響

ユーザー・家族の観点から

精神的に脆弱な家族がChatGPTを日常的に使っている場合、この機能を有効にしておくことで早期介入の一助となりうる。うつ病やメンタルヘルスの課題を抱える人を身近で支える立場にある方は、機能の存在を知っておくだけでも価値がある。

企業・IT管理者の観点から

従業員がChatGPTを業務利用しているケースでは直接の管理対象にはなりにくいが、「AIを使う従業員のメンタルヘルス」という視点で認識しておくべき機能だ。EAP(従業員支援プログラム)担当者や産業医と情報を共有しておく価値はある。

注意すべき限界

Trusted Contactはオプション機能であり、有効化は任意だ。また、ユーザーが複数のChatGPTアカウントを持つことも可能なため、意図的に回避しようとするユーザーをシステム的に止めることはできない。あくまで「善意のユーザーへの安全網」として機能するものと理解しておく必要がある。

筆者の見解

AIが人の精神的危機に関与する場面は、今後ますます増えていく。ChatGPTのような会話AIに不安や悩みを打ち明けるユーザーが世界中に存在する現実は変わらない。この問題から目を背けず、機能として実装した判断は評価できる。

Trusted Contactが興味深いのは、「AIに問題を解決させる」ではなく「人間同士のつながりを橋渡しする」設計になっている点だ。AIが自律的に判断・解決しようとするのではなく、あくまで「人間に知らせる」役割にとどめている。この発想は、AIが担うべき役割とそうでない役割を適切に分けているという意味で理にかなっている。

ただ、根本的なジレンマも残る。本当に支援が必要な人が自発的に「連絡先を登録しよう」と行動できるかどうか、という問いだ。機能の実効性は、その存在をユーザーが認知するタイミングの設計(オンボーディング体験など)に大きく左右される。

OpenAIが「臨床家・研究者・政策立案者と連携して改善していく」と明言している点は、単なる機能リリースにとどまらない継続的な取り組みの意志表示として受け取りたい。AIとメンタルヘルスの交差点は、業界全体が正面から向き合い続けなければならない領域だ。


出典: この記事は OpenAI introduces new ‘Trusted Contact’ safeguard for cases of possible self-harm の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。