OpenAIは2026年6月11日、中国に関連するとみられるアカウント群がChatGPTを使って米国内のAIデータセンターへの反対世論を形成しようとした影響力工作に関するレポートを公開した。Engadgetのマリエラ・ムーン記者がこの内容を詳しく報じている。

2つの「工作クラスター」が判明

OpenAIのレポートによると、発見されたアカウント群は2つのグループに分類される。

「Data Center Bandwagon(データセンター便乗)」グループは、AIデータセンターの電力需要が電気料金を押し上げるという主張を軸に、英語の論点文や漫画形式の画像をChatGPTに生成させた。これらのアカウントは多様な背景を持つアメリカ人になりすましてSNSに投稿しており、OpenAIの分析では「中国地方政府のクライアントのために活動する民間中国企業のソーシャルメディアチームの一部」である可能性が高いとされている。

このグループはChatGPTに対し、目的・戦略・偽SNSアカウントの検出回避方法を記したファイルをアップロードしていたことも判明した。さらに中国人反体制派や政治コメンテーターへのハラスメント用の侮辱表現の生成も依頼していたという。

第2のグループは米国の関税・テクノロジー政策への批判コンテンツ生成に特化していた。英語・イタリア語・日本語・繁体字中国語でコメントを生成し、台湾人読者を標的にしたコンテンツも含まれていた。習近平主席の画像を含めないよう指示していた点も特徴的だ。

「本物の問題」に便乗した工作

Engadgetの報道が指摘する重要な点は、この工作が完全なフィクションではなかったことだ。BloombergのレポートによるとAIデータセンター近郊の地域では電気料金が5年前比で最大267%上昇しており、これはすでに広く議論されている実際の問題だ。工作アカウントは既存の社会的懸念に便乗する形で世論誘導を試みた。

OpenAIはこの工作の重大性について「オペレーターたちが、自分たちの正体と動機を隠しながら、米国のAI能力の将来についての進行中の議論に秘密裏に介入しようとした点」にあると説明している。なお両グループとも実際には本物のエンゲージメントをほとんど得られず、世論を大きく動かすには至らなかったとOpenAI自身が認めている。

なぜDeepSeekではなくChatGPTを使ったのか

最も未解決の謎は、中国発とみられる工作がDeepSeekなど中国製AIではなく、米国企業のChatGPTを使った点だ。OpenAI自身も「この選択を駆動した要因を特定できる立場にない」とレポートに記しており、背景は不明のままだ。

日本市場での注目点

この事案は日本の読者にとっても対岸の火事ではない。

  • 日本語も工作対象に含まれていた: 第2グループは日本語でのコンテンツ生成も依頼しており、日本語話者が潜在的な標的に含まれていることが示唆される
  • インフラ論争の輸入リスク: 日本でもデータセンター建設に伴う電力・環境問題への議論が始まっており、海外発の工作フレーミングがSNS経由で伝播するリスクは現実的だ
  • 企業のAIガバナンス議論への示唆: 生成AIサービスが利用規約違反の工作活動に使われた事実は、日本企業がAIガバナンス体制を構築する際の重要な先例となる

筆者の見解

OpenAIがこうした透明性レポートを公開したこと自体は評価に値する。不正利用の実態を研究者・政策立案者・一般ユーザーに開示する姿勢は、AI企業に求められるアカウンタビリティの一つの形として参考になる。

ただし、この事例が示す構造的な問題は看過できない。かつて影響力工作には大きな人員コストがかかったが、生成AIによって一人のオペレーターが複数の言語・フォーマットで大量のコンテンツを量産できるようになった。今回の工作が「失敗に終わった」のは手法の問題ではなく、戦略や配布の問題だったと見るべきだろう。

とりわけ気になるのは、工作に使われた主張が「実際のデータに基づく正当な懸念」と表裏一体である点だ。SNS上で見かける「AIデータセンター反対論」のうち、どこまでが有機的な市民の声でどこからが組織的な工作なのか——その境界を見極めることはますます難しくなっている。情報の出所と文脈への注意力が、今後ますます重要なリテラシーになるだろう。

AIエージェントが自律的にループで動作する仕組みが普及するにつれ、こうした情報工作の自動化・高度化のリスクも同時に高まる。AI開発者・プラットフォーム・政策立案者が協調してこの問題に向き合う体制を整えることが、急務となっている。


出典: この記事は OpenAI says fake accounts from China tried to turn Americans against data centers の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。