NASA(米航空宇宙局)は2026年6月9日、アルテミスIIIミッションの搭乗員4名をジョンソン宇宙センターにて正式発表した。Ars TechnicaのエリックBerger記者が現場から詳細をレポートしている。
アルテミスIIIとは——月面着陸の「前段」として設計された低軌道試験
まず押さえておきたいのは、アルテミスIIIは月面着陸ミッションではないという点だ。2026年4月に完了したアルテミスII(有人月周回飛行)と、月面着陸を目指すアルテミスIVの橋渡し役となる、低軌道(LEO)での試験飛行として新たに組み込まれた。
NASAの新長官ジャレッド・アイザックマンが「人類を月に送る前にリスクを買い下げる(buy down risk)必要がある」と判断し、数ヶ月前にプログラムに追加されたミッションだ。コマンダーのランディ・ブレズニックも発表当日、「我々はアルテミスIIとIVをつなぐリンクだ」と端的に語っている。
搭乗員4名のプロフィール
Ars Technicaのレポートによると、発表された4名はいずれも軍歴を持つ経験豊富な宇宙飛行士だ。
- ランディ・ブレズニック(NASA宇宙飛行士)— コマンダー
- ルカ・パルミターノ(ESA欧州宇宙機関)— パイロット
- アンドレ・ダグラス(NASA宇宙飛行士)— ミッションスペシャリスト
- フランク・ルビオ(NASA宇宙飛行士)— ミッションスペシャリスト
ESAのパルミターノが参加することで、アルテミス計画が国際協力プロジェクトであることも改めて示された形だ。
ミッション概要——3回の打ち上げと複合ドッキング
Ars Technicaの報道によれば、約2週間のこのミッションには3機の宇宙船が関与する複雑な構成が組まれている。
第1打ち上げ:Blue Origin「Blue Moon」着陸試験機 先行打ち上げとなるBlue Originの着陸試験機は、最大90日間軌道上に待機できる能力を持つ。
第2打ち上げ:Orion + SLS(搭乗員) Space Launch System(SLS)ロケットでOrion宇宙船が打ち上げられ、搭乗員4名が乗り込む。その後Blue Moon着陸試験機とランデブー・ドッキングし、クルーが内部に入って生命維持システムの検証を実施。結合飛行中の制御はOrionが担う。
第3打ち上げ:SpaceX Starship さらに別タイミングでSpaceXのStarshipを打ち上げる。ただしこの機体には生命維持装置が搭載されておらず、搭乗員は内部に入らない。ドッキングはあくまで近接飛行技術とドッキングアダプタの実証にとどまる。
最終的にクルーはStarshipからアンドックし、太平洋への着水で帰還する計画だ。
タイムライン
- 2027年夏以降:アルテミスIII打ち上げ(最速スケジュール)
- 2028年:アルテミスIV——実際の月面着陸
アイザックマン長官は記者団に「2027年の打ち上げおよび2028年の月面着陸について極めて強い自信を持っている」と語った。
日本市場での注目点
アルテミス計画はNASAを中心に各国宇宙機関が参加する国際プロジェクトであり、日本もアルテミス合意に署名しJAXAが連携している。将来的にはJAXAの宇宙飛行士が月面に立つ計画があり、文部科学省もその実現に向けた準備を続けている。
また、Blue Origin(ベゾス系)とSpaceX(マスク系)という競合する2大民間宇宙企業が、同一ミッションで補完的な役割を担う構図は注目に値する。宇宙開発の官民協働モデルが本格的に機能し始めたことを示しており、日本の宇宙スタートアップや関連産業にとっても参考になるアーキテクチャだ。
筆者の見解
アルテミスIIIで最も興味深いのは、NASAがBlue OriginとSpaceXという2社の宇宙船を同一ミッションに統合しようとしている点だ。異なるベンダーの機体を軌道上で連結して飛行するのは、純粋な工学的挑戦として見ても相当に複雑な作業になる。
「リスクを買い下げる」という長官の判断は理に適っている。月面着陸という大きな目標の前に、複雑な操作手順を実際の宇宙環境で検証しておく——これはソフトウェア開発で言えば本番前に統合テスト環境でリハーサルを徹底するのと本質的に同じ発想だ。
スケジュールが「アグレッシブ」と表現されるほどタイトであることには注意が必要だが、地上シミュレーションだけでは得られない知見が必ずある。2028年の月面着陸実現に向け、2027年のアルテミスIIIがどこまで計画通り進むか——宇宙開発の次の章が始まろうとしている。
出典: この記事は NASA assigns crew for Artemis III, sets aggressive timeline for flying it の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。