PC Watchのシニアライター・福田昭氏が、2026年5月26日〜29日に米国フロリダ州オーランドで開催された半導体パッケージング技術に関する世界最大の国際学会「ECTC 2026(IEEE 76th Electronic Components and Technology Conference)」を現地取材した。そのレポートが示すのは、半導体研究開発の「主役交代」がいよいよ数字として可視化されたという現実だ。

ウェハ優位の時代が終わる——なぜ今、パッケージが注目されるのか

半導体の性能向上をこれまで牽引してきたのは、ウェハプロセス(前工程)における微細化技術だった。トランジスタを小さく、配線を緻密にすることで高速・低消費電力なチップを実現してきたが、2010年代以降この微細化によるパフォーマンス向上は明らかに鈍化しはじめた。

代わりに台頭してきたのが「先進パッケージング技術」だ。複数チップをひとつのパッケージに統合したり、チップ間接続を飛躍的に高密度化したりすることで、システム全体の性能を引き上げる手法である。TSMCのCoWoS、IntelのFoveros、AMDの3D V-Cacheなど、近年の主要なパフォーマンス向上施策はいずれもパッケージング技術に依拠している。

ECTC 2026の参加者数がIEDMを完全に逆転

福田氏のレポートによると、この主役交代が数字として明確に現れたのが今回のECTC 2026だ。

パッケージ技術の世界最大学会ECTCの参加者数は、2023年の1,619名から2026年には2,730名へと3年間で1.55倍以上に急増。一方、ウェハプロセス技術の頂点に立つIEDMの2025年参加者数は2,123名にとどまり、ECTCが完全に逆転した形となった。

投稿件数でも変化は顕著だ。ECTC 2026への投稿件数は918件で3年連続の過去最多更新。IEDMも923件と高水準を維持しているが、かつては圧倒的な差があった両学会の投稿数が今やほぼ拮抗している。

IntelはパッケージにIEDMの約4倍の研究成果を投入

発表企業の顔ぶれも劇的に変化していると福田氏は指摘する。かつてECTCの発表を担っていたのはOSATと呼ばれるパッケージング・テストの受託専業企業や材料メーカーが中心だった。ところが現在は、設計・デバイス・プロセスを手掛ける垂直統合型メーカーが次々とECTCに進出している。

福田氏の調査によると、Intelは2025年12月のIEDMに5件の研究成果を発表したのに対し、2026年5月のECTCには講演12件+ポスター7件の計19件を発表。IEDMの約4倍にのぼる数字だ。Samsung Electronicsもまた、IEDMの25件に対しECTCでは講演14件+ポスター4件の計18件を発表した。

さらに福田氏が特筆するのは、IBMがECTCの会場で「The Largest OSAT in North America(北米最大のOSAT企業)」を自称していた点だ。プロセッサ設計・基礎研究で名を馳せてきたIBMが、パッケージング・テスト受託を主力サービスとして積極展開する姿勢は、業界の構造変化を象徴している。

日本市場での注目点

半導体パッケージングへのシフトは、日本の半導体産業にとって再参入の好機でもある。ウェハ前工程では微細化競争から大きく後れを取った日本メーカーだが、パッケージング材料・装置分野では依然として世界トップクラスの競争力を持つ企業が多い。

味の素ファインテクノの「ABF(味の素ビルドアップフィルム)」はパッケージ基板の絶縁材として世界シェアを独占し、近年の先進パッケージングブームで需要が急拡大している。イビデン、新光電気工業なども関連分野で重要なプレイヤーだ。ラピダスが2nm前工程の量産を目指す一方、政府・産業界がパッケージング技術への投資を強化する動きも加速しており、ECTC 2026での主役交代の確認はその投資方針の正しさを裏付けるものといえる。

筆者の見解

ECTC 2026の数字が示すのは、半導体業界における「技術競争の主舞台が変わった」という明確なシグナルだ。

特に注目したいのはIntelの動向だ。Intelは長年、製造プロセスの技術力を競争優位の中核に置いてきた企業だ。その同社がウェハプロセスの学会IEDMの約4倍にあたる発表をパッケージ学会ECTCで行っているという事実は、単なる研究の多様化ではなく、競争戦略の重点移動として読むべきだろう。もちろん、TSMCやNVIDIAがCoWoSやHBM統合で先行してきたなかでのIntelの急接近という見方もできる。それでも、業界のリーダーたちがリソースを向ける先を見れば、次の5年で何が重要になるかは自ずと見えてくる。

ソフトウェア・AI開発に携わるエンジニアにとっても、この動向は他人事ではない。自分たちが使うGPUやSoCのパフォーマンス向上が今後どこから来るのかを理解しておくことは、技術選定やアーキテクチャ設計の視野を広げる。パッケージング技術は、もはや製造現場だけの話ではないのだ。


出典: この記事は 【福田昭のセミコン業界最前線】半導体の主役はウェハからパッケージへ。ECTCの熱気が示す研究開発の地殻変動 の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。