Ars TechnicaのライターCyrus Farivar氏が2026年6月5日、Geoffrey Cain著『Steve Jobs in Exile』の書評を公開した。本書はAppleを追われたジョブズがNeXTを設立し、再びAppleに戻るまでの「流浪の時代」を詳細に描いた作品だ。Farivar氏は「21世紀に出版された本でありながら、20世紀末のテック名著と並べて損のない一冊」と高く評価している。

なぜこの本が注目されるのか

ジョブズが1985年にAppleを去り設立したNeXT。当時は「敗者の会社」のように見られることも多かったが、NeXTが生み出したNeXTSTEP OSは現在のmacOSとiOSの直接の先祖にあたる。Cain氏はこれを「NeXTSTEPはSteveがUnixを甘くしようとした試みだ」と表現しており、技術的革新性とデザイン哲学が融合した成果だったことがわかる。

iPhoneやMacを日々使う私たちにとって、NeXT時代の話は「遠い昔の話」ではなく、手元のデバイスに脈々と受け継がれた歴史だ。

Ars Technicaのレビューが評価するポイント

新たな証言と人物描写の深み

Farivar氏のレビューによると、Cain氏は「ジョブズがNeXTで雌伏し、Appleに戻って復活した」という既知の大枠を超え、これまであまり語られてこなかったエピソードを多数掘り起こしている点が秀逸だという。

中でも印象的なのが、1989年にNeXTがAdamationというオークランド拠点の2人組ソフトウェア会社(黒人経営)を採用したエピソードだ。ハリウッドの有名エージェンシー向けプロジェクトは結局頓挫したが、Cain氏は「ジョブズは公の場でAdamationを責めることはなく、ロサンゼルス郡保安局や高級不動産業者など有力クライアントを彼らに紹介し続けた」と書いている。Farivar氏はこのエピソードを、「ジョブズが自分のビジョンを共有できる人材をいかに大切にしたかを示す」ものとして取り上げている。

テック史好きが唸る構成

Farivar氏自身が80年代末から90年代にかけてのMac文化で育ったことを明かしており、「『Fire in the Valley』『Dealers of Lightning』といった名著と並ぶ棚に加えられる」と評している。NeXTのハードウェアは市場では苦戦したが、その上で育まれたソフトウェアの思想と技術が後のAppleルネサンスを支えたという視点は、テック史を語る上で欠かせない。

日本市場での注目点

本書の日本語訳については、2026年6月時点で公式な発表は確認されていない。原書(英語)はAmazonなどで購入可能だ。

NeXTとジョブズの物語は日本ともゆかりが深い。ジョブズはソニーのデザインを参照したことで知られており、またNeXTマシンはTim Berners-LeeがWorld Wide Webプロジェクトで実際に使用したサーバーでもあった——つまりWebブラウザ誕生の舞台にもNeXTが関わっていた。こうした背景を持つ本書は、Appleファンのみならずテック史全般に関心を持つ読者にとっても価値ある一冊となるだろう。

筆者の見解

NeXTの話を読むと、「プラットフォームの全体最適」という発想の重要性を改めて考えさせられる。NeXTSTEPは単なるOSではなく、開発者体験・UIデザイン・オブジェクト指向の統合という思想の体現だった。部分最適を積み上げるのではなく、全体として一貫したエクスペリエンスを構築することが長期的な競争力を生む——この哲学はジョブズが追放という痛みを経て磨き上げたものだ。

今日のAI時代においても、同じことが問われている。単発ツールの寄せ集めではなく、エージェントが自律的に判断・実行・検証を繰り返すような「統合された仕組み」をいかに設計するかが次のフロンティアだ。NeXT時代に蒔かれた種が30年後に花開いたように、今設計している仕組みがどんな未来をつくるかは、まだ誰にもわからない。だからこそ、テック史から学ぶことの意味は大きい。

Cain氏の丁寧な取材と、Farivar氏の個人的な文脈を絡めた書評は、過去の歴史を「今に続く物語」として読み直す一助になるはずだ。

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出典: この記事は Steve Jobs in Exile is a fine profile of Jobs’ years at NeXT の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。