ユニファイドAPI企業のMergeが、Microsoft Agent StoreにAgent Handlerを公開した。Model Context Protocol(MCP)を活用し、M365 CopilotエージェントからSalesforce・Workday・SAPなどの外部業務システムへ、ガバナンスを維持したまま直接アクセスできる仕組みを提供する。
Merge Agent Handlerとは何か
Mergeは人事・給与・会計・CRM・ATS(採用管理)など180以上の業務システムを一本のAPIで束ねる「ユニファイドAPI」プラットフォームを提供する企業だ。今回、そのプラットフォームをMicrosoft Agent StoreにAgent Handlerとして登録した。M365 Copilotのエージェントは、MCPツールとして定義されたMergeのAPIを呼び出すことで、外部の業務システムにアクセスできるようになる。
MCPがM365エコシステムに入ってきた意味
MCP(Model Context Protocol)はAnthropicが提唱したオープンプロトコルで、AIがツールやデータソースを呼び出す際の標準仕様だ。Microsoftはこのプロトコルを採用し、M365 CopilotのAgent Frameworkに組み込んでいる。
Microsoft Agent StoreにMCPサーバーを登録すれば、Copilotエージェントから呼び出せる仕組みが整う。今回のMergeの登録はその最初の大型ケースのひとつと言え、他のSaaS企業がMCPベースのAgent Handlerを展開する際のリファレンスにもなりうる。
ガバナンスを保ちながらの外部連携
今回の仕組みの核心は「ガバナンスつき」という点にある。
- 認証の一元管理: Mergeが各外部システムへの認証を代理で管理し、M365のIT管理者が個別のAPIキーを直接持つ必要がなくなる
- アクセスログの可視化: どのエージェントがどのデータにアクセスしたかを記録する
- スコープ制限: 必要最小限の権限に絞ったAPIアクセスが可能
M365と外部システムの間に「信頼できるブローカー」を挟む構成は、ゼロトラストアーキテクチャの考え方とも親和性が高い。
連携可能な主な業務システム
MergeのユニファイドAPIが対応する代表的なシステムは以下の通りだ。
- 人事・給与: Workday、BambooHR、SAP SuccessFactors
- CRM: Salesforce、HubSpot
- 会計: QuickBooks、Xero、NetSuite
- ATS(採用管理): Greenhouse、Lever
Teamsの会話画面やOutlookのメール作成中に、これらのシステムのデータをCopilotが参照・操作できるようになる。
実務への影響——日本のIT現場での活用ポイント
今すぐ検討できる活用例
- M365 Copilot + Mergeを組み合わせた「Copilot for HR」「Copilot for Sales」のような用途特化エージェントの構築
- TeamsやOutlookから自然言語でWorkdayやSalesforceのデータを照会するインターフェースの実装
- IT管理者がAPIキーを直接管理しない安全な外部連携基盤の構築
日本市場特有の注意点
- 勘定奉行・SmartHRなど国産システムへの対応状況は別途確認が必要
- Mergeは外部SaaSであるため、データの流れを設計段階でしっかり把握しておくこと
- 現時点では英語圏向けのリリースが先行しており、日本語UIや日本企業向けサポートの展開タイムラインは不明
筆者の見解
M365 Copilotが「外」に開きはじめた。この流れは率直に歓迎したい。
これまでCopilotが企業現場で使いにくかった理由のひとつは、M365エコシステムの内側で完結しようとする傾向にあった。SharePointのドキュメントやTeamsの履歴は参照できても、SalesforceやWorkdayとの連携になった途端に壁が立ちはだかる——多くの企業が感じてきたジレンマだ。
MCPという標準プロトコルを通じてMicrosoft Agent Storeがサードパーティに開かれていくのは、プラットフォームとして正しい方向性だと思う。MicrosoftはAzureや.NETの時代から「エコシステムを育てる」ことが得意な会社だ。AI分野でも同じ戦略が機能すれば、統合プラットフォームとしての強みが活きてくる。
ただし、外部連携の口が広がるほど「誰がどのデータにアクセスできるか」の管理は複雑になる。ガバナンス機能をMergeに丸投げするのではなく、Entra IDやMicrosoft Purviewと組み合わせてM365側でも可視化・制御できる構成を検討するのが賢明だ。正面から向き合うべきはそこだろう。
日本の業務システムへの対応が広がっていくにつれ、M365 Copilotの実用性は大きく変わるはずだ。統合プラットフォームとしてのM365が本来持っている強みが、ようやく外部と接続されていく流れとして、引き続き注目していきたい。
出典: この記事は Merge Agent Handler on Microsoft Agent Store: Governed MCP Access for M365 Copilot の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。