Ars Technicaは2026年6月3日、MITトランジットラボの研究員Awad Abdelhalim氏が学術誌『Transport Findings』に発表した研究を報じた。Waymoのロボタクシーは渋滞削減においてUber・Lyftなどのライドシェアと同程度の効果しか持たない可能性が、実運行データから示されたという。

なぜこの研究が注目されるのか

自動運転タクシー(ロボタクシー)は「AIが最適ルートを選択し、車両の稼働効率を最大化することで渋滞を削減する」という期待のもと、業界全体で少なくとも1,000億ドル以上の投資を集めてきた。Waymoはすでにサンフランシスコなど一部の米国都市で商用サービスを展開しており、人間ドライバーと比較してクラッシュ件数が大幅に少ないという安全性データも公表している。

しかし今回の研究は、その「渋滞削減」という主要な売り文句に疑問を投げかけるものだ。

Ars Technicaのレポートが示すデータ

Abdelhalim氏の研究は、WaymoがカリフォルニアPUC(公共事業委員会)に報告した2023年8月〜2025年12月の約1,000日分のデータを分析したものだ。

Ars Technicaによると、この期間中のWaymoの実績は以下のとおり:

  • 1,380万回のトリップを完了
  • 1,930万人の乗客を輸送
  • 総走行距離:約8,630万マイル(約1億3,880万km)

注目すべきは「デッドヘッド(空車走行)」の割合だ。

空車走行率の推移

  • 研究開始時(2023年8月頃):乗客乗車率はわずか36%
  • 研究終了時(2025年末):**約56%**に改善
  • 最終的に走行距離の**44%**が空車のまま推移・横ばいに

Abdelhalim氏は空車走行には2種類あると指摘している。1つは配車を待ちながら走り回っている状態、もう1つは乗客を迎えに向かっている状態だ。Waymoはフリーウェイサービスの導入などで効率化を進めており、乗客1人あたりの空車走行距離は徐々に改善しているとのことだ。

Ars Technicaはまた、UCバークレーのMatthew Raifman氏による別の分析でも同様に「44%が空車走行」という結果が出ており、そのうち3分の2が配車待ちの空走だったことを補足している。

渋滞削減効果はライドシェアと変わらない

Ars Technicaが指摘する最も重要な論点は、「ロボタクシーの渋滞削減効果はライドシェアと同等に留まる」という点だ。

2014年にMITの研究者が「ライドシェアは車の所有を減らし渋滞を削減する」と主張したが、その後の実データでは逆に渋滞とCO₂排出量が増加した。研究者たちは後に結論を撤回し、「ロボタクシーも同じ罠に陥る可能性が高い」と予測していた。今回の研究は、その予測が現実になりつつあることを示唆している。

日本市場での注目点

日本では2025年4月の道路交通法改正により、条件付き自動運転(レベル4)の公道走行が解禁された。トヨタやホンダなど国内メーカーも商用化を加速しており、Waymo型のビジネスモデルが参考にされる可能性がある。

ただし今回の研究が示すように、空車走行は事業者にとって直接的なコスト損失であり、都市部でロボタクシーが普及した場合、公道の交通量が予期せず増加するリスクがある。日本の高密度な都市構造において、この問題をどう設計段階で織り込むかは重要な検討課題になるだろう。

筆者の見解

今回のMITによる研究は、技術への過剰な期待に対して実データで冷静な視点を提示する点で価値が高い。自動運転は安全性の面で着実に実績を積み上げている。しかし「AIが最適化するから社会全体の効率が上がる」という論理は、システムが都市のインフラ全体と統合されて初めて成立するものだ。

自律性の高いシステムも、社会への組み込み設計が伴わなければ「便利な個人サービスが一台増えただけ」になってしまう。ロボタクシーが都市交通に本当に貢献するためには、公共交通との連携や需要予測に基づく配車最適化など、「部分最適の積み上げ」ではなく「全体設計」が問われるフェーズに来ているのではないか。

日本でこの議論が本格化するとき、今回の研究は重要な参照点になるだろう。


出典: この記事は Autonomous vehicles were supposed to cut traffic—what if they don’t? の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。