Engadgetが2026年6月4日に報じたところによると、Googleはこの夏からGoogle WalletでEU加盟国の一部の公的デジタルIDに対応することを発表した。あわせて、ドイツの銀行Sparkasseとのパートナーシップによる、個人情報を開示しない新しい年齢確認機能も導入される。
今回発表された3つの機能
1. EUのデジタルID対応
Engadgetの報道によれば、EU加盟国の公的IDをGoogle Walletに追加できるようになる。具体的にどの国が対象かは現時点で未発表だが、すでに実装済みの英国・米国でのパスポート追加機能と同様の仕組みになる見込みだ。ビデオ自撮りと政府発行IDのスキャンをGoogle Walletが照合する形式で、本人確認プロセスが完結する。
2. ゼロ知識証明による年齢確認
Googleは2025年4月にゼロ知識証明(Zero Knowledge Proof)技術をGoogle Walletに組み込んでいた。今回はこれをSparkasse銀行との連携で実用化する。ゼロ知識証明とは、「18歳以上である」という事実を、名前・住所・生年月日といった具体的な個人情報を開示することなく証明できる暗号技術だ。Sparkasseの顧客はGoogle Walletを通じてプライバシーを保ちながら年齢確認ができるようになる。この機能は、英国のオンライン安全法(Online Safety Act)をはじめとする各国の年齢確認規制対応に向けてGoogleが整備を進めてきた取り組みの一環だ。
3. Google Pay決済の簡略化
EUのオンラインショップがGoogle Payのダイレクトチェックアウトに対応していれば、Apple Payと同様に登録済みの支払い方法からワンタップで決済が完了する。またセキュア・ペイメント・オーセンティケーション(SPA)機能が更新され、ワンタイムパスワードや追加の本人確認サイトへの誘導なしに、生体認証のみで決済が通るようになる。
なぜこの動きが注目されるのか
デジタルIDの標準化は、EUが整備を進めるeIDAS 2.0(EU Digital Identity)の流れに乗ったものだ。GoogleがAppleと並んでこの分野に本格参入することで、スマートフォンウォレットが「物理的な財布の代替」から「公的証明書インフラの一角」へと進化するフェーズに入ってきた。
ゼロ知識証明の実用化は特に重要だ。従来の年齢確認では確認を求める側(SNSサービスなど)に生年月日等の個人情報を渡す必要があり、データ漏洩リスクが伴っていた。「事実だけを証明し、情報は渡さない」仕組みが一般化すれば、プライバシーとコンプライアンスの両立が現実的になる。
日本市場での注目点
日本では現時点でGoogle WalletへのEU方式のデジタルID追加は対応していないが、2024年末からマイナンバーカードをGoogle Walletに登録できるようになっており、公的IDとスマートフォンウォレットの統合は着実に進んでいる。
年齢確認の文脈では、日本でもSNSアクセス制限や成人向けコンテンツの確認に関する議論が進んでいる。欧米でGoogleが構築するゼロ知識証明ベースのインフラが、日本にどのような形で展開されるかは注目に値する。Google Payについては日本でも利用可能だが、ダイレクトチェックアウトのサポート拡大は国内EC各社の対応次第だ。
筆者の見解
ゼロ知識証明をウォレットアプリのインフラに組み込むという設計は、技術的にも実用性の観点からも方向性が正しい。「個人情報を出さずに事実だけを証明する」アプローチは、プライバシー規制が厳しくなる一方で本人確認ニーズも高まるという矛盾を解消する筋のいいアーキテクチャだ。
ただし、このインフラが実際に機能するためには、銀行・官公庁・プラットフォームが足並みをそろえる必要がある。Sparkasse銀行との連携はその最初のユースケースとして意味があり、EU先行で実証が積み重なれば、日本への展開議論が加速する可能性もある。
さらに視野を広げると、デジタルIDとゼロ知識証明の組み合わせは、AIによる自動化サービスとの連携でも効いてくる。AIエージェントが人の代わりにサービスを操作・手続きする場面が増えるほど、「誰が許可したか」を証明する仕組みの重要性は増す。今回の発表は一見地味なアップデートに見えて、インフラ整備として見ると長期的に効いてくる種類の動きだ。
出典: この記事は Google Wallet ID passes will be available in select EU states this summer の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。