米テクノロジーメディアThe Vergeのニュースエディター、ドミニク・プレストン氏が2026年5月31日に報じたところによると、EU(欧州連合)の法規制によって2027年2月から多くのガジェットにおいてユーザー自身がバッテリーを交換できる設計が義務化される。フィーチャーフォン時代には当然だったバッテリー交換が、薄型化・防水化の波で失われて久しいが、規制の力で現代のガジェットに復活しようとしている。
2つの主要規制が「修理する権利」を制度化
The Vergeの記事によると、EUは2023年に携帯型テクノロジー製品のバッテリー設計に関する2つの重要な法規制を成立させた。
Commission Regulation (EU) 2023/1670 はスマートフォンとタブレットを対象とし、すでに2025年に発効済みだ。一方、より広範囲をカバーする Regulation (EU) 2023/1542 が2027年2月18日に施行される。
後者の対象となるデバイスは幅広い。
- ワイヤレスヘッドホン・イヤホン
- 電子書籍リーダー(Kindle等)
- 携帯型ゲームコンソール(Nintendo Switch等)
- ノートパソコン
- その他バッテリーを内蔵するほぼすべての携帯型機器
規則の要点は明快だ。ユーザーが「基本的な工具」または「製品に無償付属する専用工具」でバッテリーを取り外し・交換できること。バックパネルをパカッと開けるほど単純である必要はないが、「標準的なネジを数本外す程度以上の複雑さ」は認められない。さらに、互換バッテリーが最低5年間市場に供給されることも義務付けられる。
スマートフォンへの適用と「防水機種は免除」の例外
スマートフォンとタブレットは今回の広範規制から除外されている——ただし、すでに別の法律(2023/1670)で規制済みであるためだ。この既存規制ではメーカーに各種スペアパーツを最低7年間供給することが求められており、バッテリーもその対象に含まれる。
ただし重要な例外がある。以下の条件をすべて満たすスマートフォンは、バッテリー交換をプロの修理業者に限定できる。
- 500回の充電サイクル後でも容量83%以上
- 1,000サイクル後でも80%以上
- IP67以上の防水性能を保有
現行のフラッグシップスマートフォン(iPhone 16シリーズ、Galaxy S25シリーズ等)の多くはこの条件を満たすと見られ、一般ユーザーが自分でバッテリーを交換できる機種が増えるわけではない可能性が高い。
ウェアラブルは追加免除の検討中──Pixel Watch 4が反論の材料に
The Vergeの記事によると、スマートウォッチやフィットネストラッカー、スマートグラスといったウェアラブルについては、バッテリー収納部が非常に小さく取り外し時のダメージリスクが高いとして、追加免除の検討がEUで進んでいる。
この動きに対し、修理する権利を訴える欧州の市民団体「Right to Repair Europe」は反論を展開。Google Pixel Watch 4のユーザー着脱式バッテリーを実現例として挙げ、「技術的に不可能ではない」と主張している。小型ウェアラブルでのバッテリー交換可能設計が実現できるかどうかは、今後の業界全体の設計思想にも影響を与えそうだ。
日本市場での注目点
この規制はEU圏内での販売製品に適用されるものだが、グローバル展開するメーカーにとって日本市場も無縁ではない。
Appleが2023年にEUのUSB-C義務化に応じてiPhoneをUSB-Cに切り替えた際、EU向け製品だけでなく世界共通仕様に変更したのは記憶に新しい。バッテリー交換可能設計も同様の「グローバル標準化」の流れが期待できる。
日本の消費者・エンジニアが注目すべきポイント:
- ヘッドホン・ワイヤレスイヤホン: 2027年以降にEUで発売される製品はバッテリー交換可能設計が義務化。日本版も同様の設計になる可能性が高く、長期使用を前提とした購買判断がしやすくなる
- ノートPC: ビジネス向けPCはもともと交換を意識した設計が多いが、薄型コンシューマ向けモデルへも影響が及ぶか注目される
- 携帯ゲームコンソール: Nintendo Switchの後継機や競合機の設計に影響する可能性がある
- 価格への影響: バッテリー交換可能な設計にすることでコストが上昇し、製品価格に転嫁されるリスクも存在する
現時点で日本独自の同等規制は存在しないが、「修理する権利」への関心は国内でも高まりつつある。
筆者の見解
「使い捨て」から「長く使える」へ——この流れは技術者の視点からも歓迎できる動きだ。
バッテリーは消耗品だ。スマートフォンでも、ヘッドホンでも、ラップトップでも、数年使えば容量低下は避けられない。本体ハードウェアはまだ十分使えるのに、バッテリーが劣化したからといって製品ごと買い替えるという構造は、サステナビリティの観点からも消費者の財布の観点からも合理的ではない。
EUが法規制でこの問題にメスを入れたことは、方向性として正しい。「禁止するのではなく、使える仕組みを作る」という発想と同じで、ユーザーが自然に修理・交換できる製品設計を標準化することは、長期的には産業全体にとってもプラスになる。
一方で、防水性能とバッテリー交換可能性の両立は技術的に容易ではない。Pixel Watch 4の事例は「できる」という証明だが、コストやデザイン上のトレードオフは確実に存在する。規制が「最低ライン」を定めることで、各社がどう創意工夫してくるかに注目したい。
また、スマートフォン向け免除条件(IP67以上かつバッテリー長寿命)は、結果的に「高品質なバッテリーを搭載する動機」にもなりうる。規制の副作用として、スマートフォンのバッテリー品質底上げが進む可能性もある。2027年2月が、ひとつのターニングポイントになりそうだ。
関連製品リンク
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出典: この記事は User-replaceable batteries are coming back in a big way の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。
