Microsoftは、Microsoft 365 E5およびE7ライセンスに対して、これまで別途購入が必要だったIntune Suiteの主要機能を段階的に統合すると発表した。2026年8月1日までに全機能のロールアウトを完了予定で、エンタープライズのデバイス管理・特権管理の体制が大きく変わる可能性がある。

何が変わるのか

これまでIntune Suiteは、Microsoft Intuneの標準ライセンスに加えてユーザーあたり月額約10ドルの追加費用が必要なアドオンだった。今回の統合により、Microsoft 365 E5/E7を保有する組織は以下の機能を追加コストなしで利用できるようになる。

統合される主要機能

Remote Help ヘルプデスク担当者が安全にエンドユーザーのデバイスをリモート操作できるツール。ロールベースのアクセス制御(RBAC)に対応しており、「誰が」「誰のデバイスを」操作できるかを厳密に制限できる。従来のRDPベースのリモートサポートと異なり、Entra IDの認証基盤に乗った管理が可能だ。

Advanced Analytics AIを活用したデバイスの健全性分析機能。異常な動作パターンの検知や、ソフトウェアの互換性問題の事前把握など、従来のエンドポイント管理では見えにくかったインサイトをダッシュボードで提供する。Windowsアップデート展開前のリスク評価にも活用できる。

Cloud PKI オンプレミスの証明機関(CA)サーバーを不要にするクラウドネイティブな証明書管理基盤。デバイス証明書やユーザー証明書の発行・失効・管理をIntune管理コンソール内で完結させられる。Wi-Fi認証やVPN、SCEPプロファイルとの統合が前提設計になっている。

Endpoint Privilege Management(EPM) Windowsのローカル管理者権限を持たない標準ユーザーに対して、特定のアプリケーション実行時だけ一時的に昇格権限を付与するジャストインタイム(JIT)特権管理機能。「常時管理者」という最も危険な運用形態を排除するための機能として位置づけられている。

Microsoft Tunnel for MAM デバイス全体をIntuneに登録することなく、特定のマネージドアプリからだけ社内リソースへのVPNアクセスを実現する機能。BYODデバイスや業務委託先のPCへの対応として有効だ。

段階的ロールアウトのスケジュール

Microsoftは「2026年8月1日までに全機能を段階的にロールアウト」としており、機能ごとに提供開始時期が異なる。既存のE5/E7テナント管理者はMicrosoft 365管理センターやIntune管理センターで各機能の提供状況を随時確認することを推奨する。なお、既存のIntune Suite単体ライセンスを購入済みの場合、移行・価格の取り扱いについては担当のMicrosoft営業またはCSPパートナーへの確認が必要だ。

実務への影響

ライセンスコストの見直しが急務 現在Intune Suite(アドオン)を別途契約しているE5/E7組織は、契約更新のタイミングで重複コストが発生しないよう今すぐ契約条件を確認したい。大規模組織では年間コストに数百万円規模の差が出る可能性がある。

Cloud PKIはオンプレミスCA廃止の好機 多くの日本企業では、Active Directory証明書サービス(AD CS)を運用しているケースが今でも多い。Cloud PKIへの移行は一定の作業コストを伴うが、オンプレミスCAサーバーの維持・更新コストや、証明書失効管理の自動化メリットは大きい。2026年中に移行検討を始めるプロジェクトを立ち上げる価値がある。

EPMは「標準ユーザー化」の最後の砦 セキュリティポリシー上「ローカル管理者権限を全廃したい」と思いながらも、業務上必要なソフトウェアのインストールや設定変更のためにやむなく管理者権限を与え続けているケースが多い。EPMはこのジレンマを解消する。展開にはポリシー設計と業務部門との調整が必要だが、セキュリティ成熟度を一段引き上げる施策として今回の統合は大きな後押しになる。

Remote HelpでRDP依存の脱却を 社内ヘルプデスクが今もRDP+VPNでサポートしている組織は、Remote Helpへの移行を検討する価値がある。RBACによる操作権限の分離と、監査ログの自動記録はコンプライアンス要件への対応にも直結する。

筆者の見解

Intune Suiteの統合は、Microsoftが長年推進してきた「統合プラットフォームによる全体最適」という戦略の正しい具現化だと思う。特権管理(EPM)とCloud PKIがE5/E7の標準機能になるのは、ゼロトラスト推進の観点からは歓迎すべき動きだ。「常時管理者権限の付与はゼロトラストの最大の穴」とずっと言い続けてきたが、EPMがコスト障壁なく使えるようになれば、導入に踏み切れる組織は確実に増える。

Cloud PKIも同様で、「オンプレCA廃止は難しい」と言い続けている組織の言い訳がひとつ減る。インフラの複雑さを減らしてクラウドに寄せるのは、運用コストだけでなくセキュリティリスクの低減にも直結する。

一方で、Advanced AnalyticsについてはCopilot系の分析機能との棲み分けがまだ不明確な印象もある。「AIが何かを検知した」というインサイトが、実際に現場のIT担当者にとって使いやすいワークフローに落ちるかどうか——機能の追加より、運用への定着設計の方が難易度は高いと思っている。

Microsoftが持つ統合基盤の強みは、こういうタイミングに改めてよくわかる。バラバラのポイントソリューションを寄せ集めるのではなく、Entra ID・Intune・Defenderが連携した一枚岩の管理基盤として価値を出せるポテンシャルは本物だ。その方向性でぜひ走り続けてほしい。


出典: この記事は Microsoft 365 adds advanced Microsoft Intune solutions at scale の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。