HPは同社PCユーザーの約30%が依然としてWindows 10を使い続けていると明らかにした。Microsoftが精力的にWindows 11への移行を促しているにもかかわらず、PCメーカー大手の顧客の3人に1人がサポート終了済みのOSを使い続けているという、現場の実態が浮き彫りになった。
Windows 10サポート終了から7か月超——それでも3割が残留
MicrosoftはWindows 10のサポートを2025年10月14日に終了した。つまり今日(2026年5月末)時点で、すでにセキュリティ更新プログラムが届かない状態が7か月以上続いている。それでもなお、HP顧客の約3割が移行を完了していないという事実は、企業・個人を問わず「移行の壁」がいかに高いかを示している。
Windows 10のサポート終了は決して突然の話ではなかった。Microsoftは2021年の段階からWindows 11の提供を開始し、数年間にわたって移行を呼びかけてきた。にもかかわらずこの数字が残る背景には、いくつかの構造的な理由がある。
移行を妨げる3つの壁
1. ハードウェア要件の厳格化
Windows 11の最大の関門はTPM 2.0とCPU世代の要件だ。Core第7世代以前のIntel CPU、またはRyzen 1000番台以前のAMD CPUは原則として非対応となる。企業では3〜5年の標準サイクルで机上PCを運用しているケースが多く、更新タイミングが合わなければ機器ごとの入れ替えが必要になる。調達・予算・展開作業のすべてが伴うため、「今期はとりあえずWindows 10のまま」という判断が積み重なりやすい。
2. 業務アプリ・レガシーシステムとの互換性
特に日本のエンタープライズ環境では、古い業務システムや社内開発ツール、セキュリティ製品のサポート状況が移行の判断を左右する。移行前にすべての業務アプリを検証し、問題があれば代替調達するか、例外環境を整備する必要があるため、リソースが限られる中小企業では後回しになりがちだ。
3. 「まだ動いているから大丈夫」という惰性
「サポートが切れても使えるじゃないか」という感覚は根強い。しかし、サポート終了後のWindows 10はセキュリティパッチが届かないため、新たな脆弱性が発見されても修正されない。エンドポイントの一部が穴になると、ネットワーク全体のゼロトラスト設計も台無しになりかねない。
実務への影響——IT管理者が今すぐ確認すべきこと
Windows 10残存端末のリスク評価を今すぐ実施する
管理対象端末のOSバージョン分布をMicrosoft Intune(エンドポイント分析)またはMicrosoft Defender for Endpointで確認する。Windows 10端末が残っている場合、そのエンドポイントはパッチ未適用のまま稼働しているリスクが高い。条件付きアクセスポリシーでコンプライアンス非対応端末をネットワークリソースから切り離すことも検討に値する。
移行ロードマップを3か月単位で引き直す
「いつかやる」では進まない。四半期ごとにWindows 10端末の削減目標を設定し、機器更新計画と連動させる。Microsoftが提供するWindows 11互換性チェックツール(PC Health Check)を活用して、更新可能な機器から先行して移行を進めると効率的だ。
拡張セキュリティ更新プログラム(ESU)の購入を検討する
MicrosoftはWindows 10向けに有償のESU(Extended Security Updates)プログラムを提供している。2026年10月まで最大3年間、月額料金でセキュリティパッチを受け続けることができる。個人向けには30ドル(年額)、法人向けはデバイス台数・ライセンス形態によって異なる。完全移行までのブリッジとして活用を検討する価値はある。ただし、これはあくまで時間稼ぎであって、根本的な解決ではない。
筆者の見解
「30%が今もWindows 10」という数字は、正直なところ驚かない。むしろ「まだそんなものか」という感覚すらある。Windows 10は完成度が高く、多くのユーザーにとって「不満がない」OSだった。移行の動機が「メリットを感じるから」ではなく「サポートが切れるから仕方なく」では、意思決定のスピードが出ないのは当然だ。
MicrosoftはWindows 11への移行をこれだけ強力に推進してきた。それでも3割が残るということは、ハードウェア要件の設計に課題があったのではないかと思う。セキュリティ強化の方向性は間違いなく正しい——TPM 2.0の必須化もセキュアブートの標準化も、カーネルドライバーの締め出しと並んで意義のある変更だ。ただ、「正しいけれど急ぎすぎた」という印象は否めない。もう少し段階的なアプローチがあれば、移行率は今より高かったはずだ、ともったいなさを感じる。
いずれにしても、IT部門がやるべきことは明確だ。「まだ動いている」を根拠にWindows 10に居続けるのは、今となってはリスク管理の観点から正当化しにくい。移行コストと放置リスクを天秤にかければ、答えはほぼ決まっている。残存端末の棚卸しと具体的なロードマップの策定を、今週中にでも始めてほしい。
出典: この記事は HP: 30% of PC customers are still running Windows 10 の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。