Microsoft は、2026年5月27日のメッセージセンター通知(MC1324288)で、「Microsoft 365 Usage Analytics」Power BI テンプレートアプリを 2026年8月1日をもって廃止すると発表した。テナントの Microsoft 365 利用状況をワンクリックで可視化してきた定番ツールが、約9年の役割を終える。

Microsoft 365 Usage Analytics とは何だったのか

2017年に「Office 365 adoption Power BI content pack」として登場したこのアプリは、Exchange Online・SharePoint Online・Teams・Yammer などの利用状況データをテナント管理者がサインインするだけで取り込み、Power BI ダッシュボードとして可視化できる仕組みだった。

当時は利用状況を把握する手段がほとんど存在せず、「Office 365 のライセンスにお金を払っているが、実際に使われているのか」という疑問に答えるツールとして重宝された。Power BI の表現力を活かした美しいレポートは、IT 部門が経営層に投資対効果を示す際にも活躍した。

廃止のスケジュールと代替手段

日付 内容

2026年6月1日 テンプレートアプリの新規ダウンロードをブロック

2026年8月1日 アプリおよびデータパイプラインの終了(end of support)

Microsoft が提示する代替手段は2つ:

Microsoft 365 管理センターの利用状況レポート 管理センター内に組み込まれた Graph ベースのレポートで、Exchange Online・Teams・SharePoint・Planner・Visio・ブラウザ・Microsoft 365 Copilot まで幅広くカバーしている。データ鮮度はリアルタイムから2日遅れで、従来の Power BI アプリ(月次更新)より大幅に改善されている。

Graph usage reports API を利用した自作 Power BI ダッシュボード Graph API 経由でデータを取り込み、自前のダッシュボードを構築する方法。Microsoft は「テンプレートアプリの代替となる単一パッケージのソリューションは提供しない」と明言しており、カスタマイズが必要な場合は DIY 対応が求められる。

実務への影響——日本の IT 管理者が今すぐすべきこと

ステップ1: 現状の利用状況を確認する

まず自テナントで Power BI Usage Analytics アプリを実際に使っているかどうかを確認する。利用していない場合は影響なし。利用している場合は、管理センターのレポートで代替できるかを評価する。

ステップ2: 管理センターのレポートで代替できるか評価する

管理センターのレポートは機能的にかなり充実しており、多くのケースでそのまま移行可能だ。特に「月次更新で十分だった」という運用をしていた組織は、リアルタイム性が上がる分メリットすらある。

プライバシー設定については、管理センターのレポートと Power BI アプリで同じ設定が適用されるため、既存のポリシーをそのまま引き継げる。

ステップ3: カスタムダッシュボードが必要な場合はGraph API 連携を設計する

「経営層向けに独自のレイアウトでレポートしたい」「複数の指標を組み合わせた独自 KPI を作りたい」といった要件がある場合は、Graph usage reports API からデータを取得し、Power BI データセットに接続する方式を検討する。主要なエンドポイントは https://graph.microsoft.com/v1.0/reports/ 配下に整備されており、Microsoft Graph PowerShell SDK や REST クライアントから利用可能だ。

ISV ソリューションという選択肢

記事原文でも触れられているとおり、ここには ISV(Independent Software Vendor)のチャンスがある。Graph データをフィードとして取り込み、従来の Power BI アプリに近い体験を提供するサードパーティ製品が登場する可能性がある。現時点では具体的な後継サービスは公式には存在しないが、Microsoft 365 管理系ツールを提供する ISV の動向には注目しておきたい。

筆者の見解

この廃止決定は、正直なところ「なぜ今まで残っていたのか」という感想のほうが強い。Graph usage reports API が整備された時点で、Power BI テンプレートアプリは役割を終えていた。データ鮮度(月次 vs 2日)の差は決定的だし、管理センターのレポートが Copilot の利用状況まで網羅するようになった今、二重管理を続ける理由はなかった。

ただ、「グラフィカルに優れた Power BI で経営層に見せるレポートを作ってきた」という IT 部門にとっては痛手であることも事実だ。テンプレートアプリは「準備ゼロで始められる」という手軽さが価値の大部分だったわけで、それを「Graph API で自作してください」で片付けるのは少々乱暴に感じる。

Microsoft には、Graph API を使ったダッシュボード構築のサンプルコードやベストプラクティスガイドを充実させる責任があると思う。エンジニアリングリソースの集中は理解できるが、移行をスムーズにするための投資は惜しまないでほしい。それこそが「統合プラットフォームとして価値を出す」という方向性と整合する。

管理センターで十分な組織はさっさと移行する。Power BI のビジュアルにこだわりたい組織は Graph API 連携に踏み出す良い機会だ。いずれにせよ、8月1日まで時間はある。今のうちに動いておくことをお勧めする。


出典: この記事は Microsoft Cans Power BI App for Microsoft 365 Usage の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。