NVIDIAのCEOジェンセン・ファン氏が、AIエージェント専用CPU「Vera」によって2000億ドル(約30兆円)規模の全く新しい市場を開拓できると宣言した。2026年5月の決算説明会で語ったもので、同社が従来手がけてこなかったCPU市場への本格参入を示す発言として業界の注目を集めている。

GPUの王者がCPUに踏み込む理由

NVIDIAといえばGPUの覇者だ。生成AIブームを背景に四半期ごとに記録を更新し続け、今回の決算でも売上高816億ドルと過去最高を更新、次四半期は910億ドルを見込むと発表した。そのNVIDIAが今、なぜCPUに力を入れるのか。

ファン氏の説明はシンプルかつ明快だ。

「AIモデルの『思考』部分はGPUが担う。しかしエージェントが実際にタスクを実行する部分はCPUで動く」 つまり、生成AIの推論フェーズはGPUが主役だが、エージェントが自律的に動き回り、ツールを呼び出し、作業を遂行するフェーズではCPUが主役になる、という構造的な認識だ。

Vera CPUとは何か

「Vera」は2026年3月に発表されたNVIDIA初の本格的なアーキテクチャを持つAI専用CPUだ。単体販売のほか、次世代GPU「Rubin」とのバンドル販売も行われる。

従来のクラウド向けCPUは「コア」数を増やして複数アプリの並行処理を最適化する設計思想で作られてきた。IntelやAMDが長年この路線を磨いてきた領域だ。

Veraはその設計思想を根本から変えている。トークン処理速度を最優先に最適化した構造を持ち、エージェントがテキスト・コード・ツール呼び出し結果を次々と処理するワークロードに特化している。ファン氏はこれを「世界初のエージェントAI向けに専用設計されたCPU」と位置づけた。

「今年だけで200億ドル」という数字の重み

重要なのは、これが単なる将来予測ではないという点だ。ファン氏は2026年の時点で既にVera CPU単体で200億ドルの販売実績があると明かした。

発表から数ヶ月でこの規模に達しているとすれば、主要ハイパースケーラーとシステムメーカーの全てがVeraの展開に向けたパートナーシップを結んでいるというファン氏の発言と整合する。

もっとも、競合の動きも激しい。Amazon Web Servicesは自社開発AIチップ(CPU・GPU両方)に関してMetaと大型契約を結んだことを発表しており、AWS CEOのアンディ・ジャシー氏はNVIDIA製チップと同等以上の性能を自社で実現できると明言している。Intel、AMDも黙ってはいない。

「数十億のエージェントが数十億のVeraを使う」

ファン氏のビジョンはさらに大きい。

「世界には10億人の人間ユーザーがいる。私の感覚では、世界は数十億のエージェントを持つ方向に向かう。それらのエージェントは全てツールを使い、そのツールは今日の私たちがPCを使うのと同じように、エージェント専用のPCになっていく」 この予測が正しければ、CPUの需要は人間のPC需要をはるかに凌駕する規模で爆発することになる。「だから私たちはもっと多くのCPUが必要になる」というファン氏の言葉は、NVIDIAがGPU一本足打法から脱却し、エージェント時代の計算基盤全体を掌握しようとしている戦略を端的に示している。

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インフラ調達の判断軸が変わる

クラウド上でAIエージェントを本格運用する企業は、GPUインスタンスだけでなく、エージェント実行層に最適化されたCPUインスタンスの選択肢を今後意識する必要がある。AWS、Azure、GCPがVeraベースのインスタンスを提供し始めた時点で、ワークロードの分離設計(推論はGPU、エージェント実行はVera CPU)が標準的なアーキテクチャになりうる。

コスト試算の前提が変わる

GPUインスタンスはコスト高の象徴だが、エージェントの実行フェーズをCPU最適化インスタンスに移せれば、コスト構造が大きく改善する可能性がある。エージェントの設計段階から「どのフェーズをどの計算資源で動かすか」を意識するアーキテクチャ思考が求められる。

オンプレミス・エッジの文脈でも要注目

ファン氏が「エージェント専用のPC」と表現したように、将来的にはエッジ・オンプレでのエージェント実行基盤としてVeraが登場する可能性もある。製造業・金融など、クラウドに全データを出せない業種での展開が現実味を帯びてくる。

筆者の見解

ジェンセン・ファン氏の「ハイプマン」ぶりは有名だが、彼の場合は有言実行の歴史がある。今回の発言も、既に200億ドルという具体的な販売実績を伴っている点で単なる見通しとは次元が異なる。

個人的に興味深いのは、この発表がエージェントの構造をGPUとCPUという計算資源の分業として明確に定義した点だ。「AIエージェントが自律的にループで動き続ける仕組み」を設計する上で、「思考」と「実行」を分けて考えることは理にかなっている。エージェントが100回ツールを呼び出して作業を完遂するとき、そのループのほとんどはGPUを使わない。この事実に最初に適切なハードウェアを当てたのがNVIDIAだ、ということになる。

競合としてAWSやIntelが挙げられているが、NVIDIAの強みはソフトウェアスタック(CUDA等)との統合にある。ハードウェア単体の性能比較だけでは語れない部分が大きい。

エージェントAIが「次のフロンティア」であることは間違いない。その計算基盤を誰が握るかという争いは、今まさに始まったばかりだ。日本のエンジニアにとっては、クラウドベンダーがどのチップを採用するかを注視しながら、エージェントのアーキテクチャ設計力を今のうちに磨いておくことが、最も実践的な対応策になる。


出典: この記事は Jensen Huang says he’s found a ‘brand new’ $200B market for Nvidia の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。