Googleの従業員が社内の機密データを使い、予測市場プラットフォーム「Polymarket」で約120万ドル(約1億9,000万円)を稼いだとして詐欺罪などに問われた。The Vergeが2026年5月27日に詳細を報じた。ABC Newsが先行報道し、連邦検察が起訴状を公開したことで全容が明らかになった。

何が起きたか

連邦検察が起訴状で名指ししたのは、Googleの従業員Michele Spagnuolo氏。「AlphaRacoon」というユーザー名でPolymarketに参加し、コモディティ詐欺・電信詐欺・マネーロンダリングの3罪で起訴された。ニューヨークで逮捕されたが、225万ドル(約3億5,000万円)の保釈金で釈放されている。

起訴状によると、Spagnuolo氏はGoogleの「Year in Search 2025」(年間検索トレンドランキング)に関連する賭けを集中的に行った。The Vergeの報道によれば、検察は「Spagnuolo氏はGoogleの機密かつ商業的価値のある内部データにアクセスしていたため、一般の取引者よりも先に結果を知っていた」と主張している。

「ほぼゼロの確率」の賭けを的中させた手口

特に注目されるのが、シンガーのD4vdが2025年の「Google最多検索人物」1位になるという賭けだ。The Vergeの報道によれば、この賭けにPolymarketが付けた確率は「ほぼゼロに近い」水準だったという。一方で、教皇レオ14世やケンドリック・ラマーが「Year in Search 2025」に登場しないという逆張りの賭けにも成功した。

GoogleのYear in Searchは「最も検索された数」ではなく「最も検索数が急増したキーワード」を基準にランキングする。Googleは「合計検索数ではなく急上昇を測ることで、2025年に独自だったトレンドを特定できる」と説明している。この特殊な計算方法を一般の利用者が正確に把握するのは難しく、内部データにアクセスできる立場の人間には構造的なアドバンテージが生まれやすい。

ブロックチェーンの透明性が「自滅」を招いた

Polymarketはブロックチェーン上で取引が行われるため、全履歴が原則公開される。Polymarketは声明でX(旧Twitter)に投稿し、「我々自身のマーケット・インテグリティ・インフラがSpagnuolo氏の活動にフラグを立てた」「ブロックチェーン取引は透明で追跡可能であり、悪意のある行為者は足跡を残す」と主張している。

The Vergeの報道によると、Spagnuolo氏の異常な的中率はすでに2025年12月の時点でForbesや各種SNSで話題になっており、捜査のきっかけとなったとみられる。また起訴状は、Spagnuolo氏が利益を得た後に「資金源と所有権を隠蔽しようとした」とも指摘している。

Googleの対応

GoogleのスポークスパーソンJaclyn Vazquez氏はThe Vergeへのコメントで次のように述べた。「当該社員は全社員が使えるツールを通じて社内マーケティング資料にアクセスしたが、そのような機密情報を使って賭けをすることは当社ポリシーの重大な違反だ。当該社員を休職処分とし、適切な措置を講じる」

日本市場での注目点

Polymarketは主にUSD Coinを用いたブロックチェーン上の予測市場で、日本からの利用は賭博法・金融商品取引法の観点から法的グレーゾーンに位置する。日本では現在、このようなプラットフォームへの参加自体がリスクを伴う。

米国では規制の枠組みが整備途上で、商品先物取引委員会(CFTC)が予測市場に対する「排他的権限」を主張する一方、複数の州が独自規制を模索している。今回の逮捕劇がどのような法的判断に落ち着くかは、予測市場全体の規制論議にも影響を与えそうだ。

競合事例として、同月には米陸軍兵士がベネズエラ大統領の拘束に関する賭けで40万ドルを稼いだとして同様の詐欺罪に問われており、予測市場をめぐるインサイダー取引事件が続いている。

筆者の見解

今回の事件が示す最も重要な教訓は、「新しいプラットフォームだから監視の目が届かない」という錯覚の危うさだ。Polymarketのようなブロックチェーンベースのサービスは、むしろ従来の金融市場よりも取引履歴が追跡しやすい。異常な的中率がすでにSNSで話題になっていた事実を見ると、Spagnuolo氏の読み違いは技術的なものではなく、「目立たないだろう」という認識の甘さだったといえる。

より本質的な問題は、企業内部データへのアクセス権限と、そこから生まれる経済的利益の非対称性をどう管理するかだ。Googleは「全社員が使えるツールで内部データにアクセスした」と説明しており、技術的なアクセス制御とは別に、利益相反を検知する仕組みの整備が課題として浮かぶ。

AIが組織内のデータから価値を引き出せる時代に入り、内部データの経済的価値はさらに高まっている。これはGoogleだけの問題ではなく、大量の内部データを抱えるすべてのテクノロジー企業が直面するガバナンスの問いだ。アクセスログの監査・行動異常の検知・利益相反の申告制度といった多層的な対策が、改めて重要性を持つ事件だといえる。


出典: この記事は A Google employee allegedly used inside information to win $1.2 million on Polymarket の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。