PC Watchの福田昭氏が、2026年5月10〜13日にベルギー・ルーベンで開催された半導体メモリ技術の国際学会「International Memory Workshop 2026(IMW 2026)」の詳細レポートを公開した。今回の最大の注目点は、SandiskのTakayuki Gyakushi氏らSandisk・キオクシア合同チーム6名による論文が最優秀論文賞(ベストペーパーアワード)を受賞したことだ。日本人研究者が国際舞台で受賞した点でも意義深い成果である。

なぜ今、QLCの信頼性が注目されているのか

QLC(4bit/セル)方式の3D NANDフラッシュは、1セルに最大15段階のしきい電圧を書き込む高密度な記録方式で、大容量SSDの主力として急速に普及している。しかしその構造上、書き換えサイクルを繰り返すとセルのしきい電圧ばらつきが拡大し、データ保持性能が経年劣化するという根本的な課題が業界共通の悩みだった。

さらにやっかいなのが、100層を超える積層構造が持つ「高さの不均一性」だ。製造特性上、低層のセルではトンネル絶縁膜が薄くなりやすく、保持電荷が抜けやすい。高層・低層でセル特性が異なるため、全体の信頼性設計が複雑化する。この二重の課題が、QLC SSDの「容量は魅力だが耐久性が心配」という評価を生み続けてきた。

海外レビューのポイント:「MANOSON」構造の巧みな発想

PC Watchの福田昭氏のレポートによると、Sandisk・キオクシア共同研究チームが提案した解決策は「チャンネル裏面(CBS: Channel-BackSide)エンジニアリング」と呼ばれる手法だ。従来の「MANOS(Metal-AlO-Nitride-Oxide-Semiconductor)」構造の多結晶シリコン膜とコア絶縁膜の間に、酸化膜と窒化膜を追加した新構造「MANOSON(Metal-AlO-Nitride-Oxide-Semiconductor-Oxide-Nitride)」を開発した。

この手法の巧みな点は、製造プロセス上の「ばらつき」を欠陥として排除するのではなく、補正メカニズムとして設計に組み込んだことにある。追加した酸化膜の膜厚は積層位置によって自然に変化する。低層では酸化膜が薄いため消去時に裏面窒化膜への電荷捕獲が多く発生し、しきい電圧が上昇しやすい。高層では逆に捕獲が少なく上昇が緩やか。この「高さ依存の補正効果」が、積層位置によるセル特性のばらつきを自動的に打ち消す方向に働く。

福田氏のレポートでは透過型電子顕微鏡(TEM)画像やエネルギーバンド図を交えて詳細に解説されており、実験結果として書き換えサイクル後の長時間データ保存時におけるしきい電圧ばらつきの低減が確認されたと紹介されている。

日本市場での注目点

この研究が将来的にコンシューマー向けQLC SSDへ実装されれば、書き換え耐性(TBW)の改善や保証期間の延長が期待できる。現行のQLC SSDは大容量・低価格が強みだが、書き込み頻度が高いユーザーには耐久性の不安が購入の壁になってきた。その壁が下がれば、コストパフォーマンスの高いQLC SSDが中〜上位ユーザー層にも広がる可能性がある。

Sandiskブランドはウエスタンデジタルが展開しており、国内では「WD Blue」「WD Red」シリーズとして広く流通。キオクシアは東芝メモリの後継として国内ストレージ市場に深く根ざしている。両社の共同研究成果が製品化されれば、日本市場のNAS・PC向けSSD製品群にも直接的な恩恵が及ぶ可能性が高い。

筆者の見解

今回の受賞論文が示すアプローチには、半導体設計の本質的な面白さが詰まっている。積層プロセスの「制御しきれないばらつき」を逆手に取り、それ自体を信頼性改善の補正機構として活用するという発想は、制約の中でエレガントな解を見つける工学の醍醐味だ。

AI時代に入り、データセンターが扱うストレージ容量は爆発的に増加している。この規模においてQLC NAND以上に高密度・低コストな記録媒体は現時点でほぼ存在しない。「容量の勝者」をより信頼できる媒体に育てる研究は、インフラ全体の信頼性向上に直結する。商業実装まで数年かかるのが通例だが、IMWのベストペーパーは業界ロードマップを先取りすることが多い。今後のSandisk・キオクシア製品のスペックシートに、この技術が形を変えて現れる日を楽しみに追いかけたい。


出典: この記事は 【福田昭のセミコン業界最前線】Sandiskとキオクシア、QLC方式3D NANDフラッシュの信頼性を大幅に高める技術を開発 の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。