Microsoftは2026年3月、Microsoft Entra IDにおいてOpenID Connect(OIDC)標準に基づく外部MFA(External MFA)を一般提供(GA)として正式リリースした。これにより、組織が使用するサードパーティのMFAソリューションをConditional Access(条件付きアクセス)ポリシーと統合できるようになった。
外部MFAとは何か
従来のMicrosoft Entra IDでは、「Custom Controls」という機能でサードパーティ連携は可能だったものの、Conditional Accessポリシーとの統合が限定的で、細かなポリシー制御に制約があった。
外部MFAはこの制約を解消する。OIDCを通じてサードパーティのMFAプロバイダーと認証フローを統合し、Entra IDが認証要求を評価したうえでユーザーを外部プロバイダーに誘導する。検証後はEntra ID側で最終的なアクセス判断を下す——つまりポリシー制御の中枢はあくまでEntra IDに集約される設計だ。
設定と運用の仕組み
設定後、外部MFAはテナントの認証メソッドポリシーに「外部認証メソッド設定」として追加される。管理者は特定のユーザーグループへの適用・除外を柔軟に制御でき、組み込みの認証オプションと並べて管理できる。
外部プロバイダーが認証中にユーザー情報にアクセスするには、管理者の同意(Admin Consent)の付与が必要だ。この点はセキュリティ上の重要なポイントであり、実装前に社内ポリシーのレビューを行っておきたい。
MicrosoftのPrincipal Product Lead、Swaroop Krishnamurthy氏は「サインイン頻度とセッション制御を適切に調整すれば、再認証とユーザー生産性のバランスを取れる」とコメントしている。一方で「過剰な再認証はフィッシングリスクを高める可能性がある」とも警告しており、ポリシーの適切なチューニングが不可欠だ。
主なユースケース
外部MFAが特に力を発揮するのは以下のシナリオだ:
- M&A(合併・買収)シナリオ: 買収先企業が既存のMFAインフラを持っている場合、完全移行前の過渡期でもシームレスな認証統合が実現できる
- 規制・コンプライアンス要件: 特定のMFAソリューション使用を義務付けるセクター規制(金融・医療等)への対応
- 既存MFAインフラの維持: オンプレミスやSaaSで稼働中のMFAソリューションをEntra IDに統合し、ユーザー体験を統一する
【重要】2026年9月30日 Custom Controls廃止——移行は今すぐ着手を
既存のCustom Controls機能は2026年9月30日に廃止予定。現在使用中の設定は移行期間中は動作し続けるが、移行ガイダンスは廃止日前にMicrosoftが公開予定だ。
Custom Controlsを利用中の組織は早急に移行計画を立てることを強く推奨する。特に規模の大きい組織ではテスト・パイロット運用に相応の時間が必要になるため、「そのうちやる」は危険な先送りになる。
日本のエンジニア・IT管理者への実務インパクト
移行チェックリスト(Custom Controls利用中の場合)
- 現状把握: Entra IDの認証メソッドポリシーからCustom Controls設定を洗い出す
- 外部プロバイダーの対応確認: 利用中のサードパーティMFAベンダーが外部MFA(OIDC)に対応しているか確認
- テスト環境での検証: パイロットグループを設定して動作検証を実施
- ポリシーチューニング: サインイン頻度・セッション制御の再調整
- 本番移行と監視: ログ・サインインレポートで異常を早期検知
ゼロトラスト戦略との整合性
外部MFAはConditional Accessによる中央集権的なポリシー管理を維持したまま外部ソリューションと統合できる点で、ゼロトラストアーキテクチャとの相性が非常に良い。「認証はどのプロバイダーでも、ポリシー判断はEntra IDで一元化」という分離は、ネットワーク境界に依存しないIDベースのアクセス制御原則と自然に整合する。
筆者の見解
外部MFAのGA化は、Entra IDが企業のIDプラットフォームとして成熟していることを示す好例だと感じている。MFAの選択肢を外部に開きながらもポリシー制御をEntra IDに集約する設計は、M&Aや業界規制が絡む現実の企業IT環境をよく理解した実装だ。
ゼロトラスト推進の観点から言えば、「どのMFAを使うか」よりも「ポリシー評価と認可判断がどこで行われるか」のほうが本質的に重要だ。その中枢をEntra IDに置いたまま選択肢を広げられるのは理にかなっている。
ひとつ実務的な注意点を加えると、Admin Consentの管理とConditional Accessポリシーの再設計には相応の工数が伴う。Custom Controls廃止まで6ヶ月を切っているいま、日本の大規模エンタープライズが先送りするリスクは小さくない。廃止日という明確な締め切りがある以上、今月中に着手計画を立てることを強くすすめたい。Entra IDには正面から勝負できる実力が備わっている。その力を使いこなせるかどうかは、運用側の準備次第だ。
出典: この記事は Microsoft Entra ID: External MFA now generally available の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。