3Dプリンティング向けモデル生成プラットフォームのModelRiftが、主要AIコーディングツール6種を対象に実施したOpenSCAD建築生成ベンチマークで、Googleの「Antigravity 2.0」がClaude Sonnet、Claude Opus、OpenAI Codex 5.5 High、Cursor Composerら競合を抑えて首位を獲得した。

「パンテオンを再現せよ」——ベンチマーク課題の設計思想

ModelRiftはすべてのシステムに同一のプロンプトを与えた——ローマのパンテオンをOpenSCADで再現すること。参照画像から、円形のロトンダ(rotunda)、ドーム、ポルティコ(柱廊玄関)、円柱、ペディメント(三角破風)、正面ファサードを含むモデルを生成させるタスクだ。

この課題が選ばれた理由には明確な設計思想がある。単純な「穴あきキューブ」のようなサンプルでは、difference()cube()cylinder() を知っているかを確かめるだけで終わる。現行の主要LLMはこの程度なら難なくこなせてしまい、差別化にならない。

パンテオンが優れたベンチマーク課題である理由は、OpenSCADの「得意領域の境界線上」に位置するからだ。OpenSCADは有機的な曲面や彫刻的フォルムには不向きだが、ブール演算・放射対称・押し出し(extrusion)・構造的な形状には強い。パンテオンはまさにこれに合致する——大きな円形ドーム、中央のオクルス(天窓)、規則的な列柱、長方形のポルティコ、三角形のペディメント。「難しすぎず、簡単すぎない」絶妙な難易度設定だ。

なぜOpenSCADがLLMとの相性がいいのか

OpenSCADのコードはプレーンテキストで構成されており、LLMが直接扱いやすい。「28本の柱を円周上に等間隔で配置する」「ドームからオクルスを切り抜く」といった建築的な意図が、そのままコードとして記述できる。

対照的に、Blender MCPのようなUI操作を経由するアプローチでは、AIが建築的意図をアプリケーション操作の手順に翻訳し、さらにシーンの状態を頭の中で管理し続ける必要がある。CAD的タスクにとってこれは余分な間接層だ。OpenSCADならジオメトリそのものがテキスト成果物になるため、検証・修正・再利用がしやすい。

実務への影響

3D CAD生成の自動化が現実的段階へ: LLMが構造的・パラメトリックな3Dモデルをコードとして直接生成できるなら、プロトタイプ設計や3Dプリント用パーツ生成の自動化サイクルが大幅に短縮できる。OpenSCADのパラメータを変更するだけでサイズ・形状バリエーションを展開できる性質は、製品開発の反復コストを下げる武器になる。

「万能モデル」ではなくタスク依存の選定が重要に: 今回のような「3D建築形状の生成」というニッチな課題では、汎用コーディング性能とは異なる空間認識能力が問われる。日本の開発現場でも、AIツール選定の基準として「汎用スコア」より「自社ユースケースでの実測値」を重視する姿勢が求められる。

筆者の見解

今回のベンチマークで本質的に重要なのは「Antigravity 2.0が勝った」という結果より、「LLMの能力はタスクの種類によって著しく異なる」という事実が、実測で改めて示された点だ。

OpenSCADのような構造的記述言語での3D生成は、一般的なコーディング補助や文章生成とは異なる認知軸が問われる特殊な領域だ。この分野での順位が、他のあらゆるタスクに直接対応するわけではない。ベンチマーク結果を読む際は「どの課題で測ったか」を必ず確認する習慣が大切だ。

日本のエンジニアにとってより実践的な問いは「どのモデルが首位か」よりも「このOpenSCAD + LLMという組み合わせを自社の設計・製造ワークフローにどう組み込めるか」だろう。製造業・プロダクト開発の現場では、これまで設計者の手作業だったプロトタイプ生成を、AIが直接コードで担える現実的な入り口として、一度手を動かして試してみる価値は十分にある。


出典: この記事は Antigravity 2.0 Tops the OpenSCAD Architectural 3D LLM Benchmark の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。