SpaceXの最新世代ロケット「Starship Version 3(V3)」が、2026年5月21日(現地時間)に予定されていた初打ち上げを断念した。米テクノロジーメディア「Ars Technica」のStephen Clark記者が詳報を公開している。カウントダウン残り40秒という土壇場でランチタワーのグラウンドシステムに問題が発生し、SpaceXは翌22日午後5時30分(CDT、日本時間23日午前7時30分)を次の打ち上げウィンドウとして設定した。

Starship V3とは——なぜ今回の打ち上げが重要なのか

Starship V3は全高124メートル(408フィート)という規格外のスケールを持つロケットであり、今回は12回目の全規模テスト飛行かつ「V3」と呼ばれる大幅改良版の初飛行にあたる。

主な変更点は以下の通りだ:

  • Raptorエンジン39基搭載(効率・推力ともに向上)
  • 推進システムの全面再設計
  • グリッドフィンを4枚(小)から3枚(大)に変更
  • Super Heavy Boosterに「再利用可能なホットステージングリング」を恒久装着

Ars Technicaの報道によれば、今回の試みでは液体メタンと液酸を合わせて約500万kg超を40分足らずで充填することに成功した。同メディアは「SpaceXの小型機Falcon 9が同量の推進剤を充填するのと同程度の時間でこなしたことになる」と指摘しており、オペレーションの成熟度が際立つ。

スクラブの原因——残り40秒での「油圧ピン」問題

Ars Technicaの記事によると、カウントダウンは5回にわたってホールドが繰り返された末に中断された。SpaceXのライブ配信ホストを務めたDan Huot氏は「今日この問題をクリアするのは難しい、スタンドダウンとなる」と述べた。

イーロン・マスクCEOはX(旧Twitter)で、原因を「ロケットとランチタワーをつなぐアンビリカルアームの油圧ピンが引っ込まなかった」と説明。「今夜中に修理できれば、明日(22日)また打ち上げを試みる」とコメントした。

今回の飛行にかかる重大な賭け

Ars Technicaは、今回の打ち上げが単なるテストにとどまらない複数の重大局面と重なっていることを指摘している:

  • NASAアルテミス計画: 中国より先に月面着陸を実現するための中核として、Starship HLS(Human Landing System)が選定されている
  • Starlink次世代衛星・軌道上データセンター: SpaceXが計画する大規模な新世代Starlinkや軌道データセンターの打ち上げ能力を担う
  • SpaceX IPO目前: 株式公開を控えた同社にとって、V3の成否はタイミング的にも注目される

なお、今回の飛行では完全再利用を目標に設計されたStarship/Super Heavyのどちらの段も回収を行わない方針とのことだ。

日本市場での注目点

宇宙開発・通信インフラの観点から、日本にとっても無縁ではない動向だ。JAXAと日本人宇宙飛行士のアルテミス計画参加はすでに合意されており、月面着陸手段であるStarship HLSの実証進捗は日本の宇宙戦略にも直結する。

Starlinkはすでに日本国内でサービスを展開しており、V3系での次世代コンステレーションが実現すれば、国内のサービス品質・容量にも波及しうる。直接購入できる製品ではないが、宇宙・通信・防衛分野のエンジニアや事業者には必須の動向といえる。

筆者の見解

カウントダウン残り40秒——全充填が完了し、あとは点火するだけのタイミングで「ランチタワーのピン1本」がロケットを地上に引き留めた。宇宙開発の現実を改めて突きつけられる場面だ。

興味深いのは、技術的なハードルの大部分はすでにクリアされていた、という事実だ。500万kg超の推進剤を40分以下で充填し終えるというオペレーションは、人類が積み上げてきたロケット開発の中でも前例のない水準だ。エンジン・推進系・再設計されたグリッドフィンも準備万全だった。それだけに、最後の油圧系サブシステムひとつによるスクラブは「もったいない」という言葉がぴったりくる。

逆に言えば、SpaceXが今回証明したのは「V3はすでにそこまで来ている」ということでもある。複雑なシステムほど、小さな不具合が巨大なインパクトを持つ——これは宇宙ロケットに限らず、大規模なエンジニアリング全般に通じる教訓だ。翌日の再挑戦に注目したい。


出典: この記事は Ground system issue scrubs first launch of SpaceX’s Starship V3 rocket の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。