米国の大手音楽エンターテインメント複合体ライブネーション(Live Nation)と傘下のチケットマスター(Ticketmaster)に対し、30州以上の州政府が連邦判事に解体命令を求める正式申し立てを行った。The Verge のシニア政策記者ローレン・ファイナー(Lauren Feiner)が2026年5月21日に報じた。
陪審の独占認定から「解体要請」へ
2026年4月、連邦陪審がライブネーション・チケットマスターを「違法な独占企業」と認定した。チケット販売から会場運営、アーティスト・プロモーションまでを一手に握る垂直統合モデルが公正競争を著しく阻害していると判断されたものだ。
今回、30州超の司法長官がアラン・スブラマニアン判事(Judge Arun Subramanian)に提出した救済案は大きく3点に集約される。
- チケットマスターの売却(ダイベスティチャー):チケッティング部門そのものを切り離すよう要求
- 大型円形劇場(アンフィシアター)の一部売却:「相当数」の大型会場の手放しを要求
- 囲い込みの禁止:会場利用をプロモーション・サービスの利用に紐付けることを禁止
DOJ和解を大幅に超える強硬な内容
The Verge のレポートによると、今回の州政府側の要求は、司法省(DOJ)が先月成立させた和解案を大幅に上回る。DOJの和解は十数か所の会場での排他的予約契約の解消にとどまり、会場の売却には踏み込んでいなかった。
カリフォルニア州司法長官ロブ・ボンタはライブネーションのビジネスの他の部分についてもさらなる解体を検討中であると示唆しており、州政府側の要求は今後拡大する可能性がある。
裁判中に明らかになった具体的な問題行為への対策として、以下も求められている。
- 特定のチケットシステムを使わない会場への報復行為の禁止
- 不当に高騰したチケット手数料の返金
ライブネーション側は即座のコメントを拒否しているが、判決に対して徹底的に争う姿勢を示している。
日本市場での注目点
チケットマスターは日本では直接サービスを展開しておらず、日本の音楽・エンターテインメント市場はチケットぴあ・ローソンチケット・イープラスが主要プレイヤーとして競い合う構造だ。しかしこの訴訟の意義は日本とも無縁ではない。
業界構造への示唆:「チケット販売+会場運営+プロモーション」を一社が支配する垂直統合モデルの法的リスクが問われた判例として、世界各国の規制当局に参照されることになる。
消費者保護の観点:高額な手数料、不透明な価格設定、ダイナミックプライシングの乱用など、チケット市場の問題は日本でも議論が続いている。米国の判決がどのような前例を作るか、公正取引委員会の関係者も注視するだろう。
プラットフォーム独占への警鐘:テック系の反トラスト規制と同様に、リアル産業においても「プラットフォーム支配」を法的に問えることを示す事例として注目度が高い。
筆者の見解
ライブネーション・チケットマスター問題の本質は、「一社がインフラを支配すると市場原理が機能しなくなる」という構造的な問題だ。チケット販売プラットフォームを握れば、それを盾に会場やアーティストを囲い込める——この垂直統合による「囲い込みの連鎖」こそが今回の陪審認定の核心だろう。
デジタル産業でも同様のパターンは繰り返されてきた。「標準的なインフラ」と「独占的な支配」は紙一重であり、健全な競争環境を維持するためには一定の制度的介入が必要になる場面がある。今回の州政府側の主張は、DOJよりも踏み込んだ構造是正を求めている点でインパクトが大きい。
判事がどこまで踏み込んだ救済命令を出すかが今後の焦点だ。チケット市場の透明性と公正さを取り戻すためには、「もったいない妥協」ではなく構造的な解決が必要という州政府の立場には説得力がある。この判決が業界の健全化につながることを期待したい。
出典: この記事は States ask judge to break up Live Nation-Ticketmaster の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。