MicrosoftとSAPは、2026年5月開催の年次カンファレンス「SAP Sapphire 2026」において、Azure上でのSAP連携に関する複数の重要アップデートを発表した。RISE with SAPにおけるAzureの採用比率が60%を超えたことが明らかになったほか、SAP Datasphere MirroringとMicrosoft Fabricの統合がGA(一般提供)に達するなど、エンタープライズ向けクラウド・データ基盤の両社協業が新たなフェーズに入った。
RISE with SAPのAzure採用率が60%超に
RISE with SAPは、SAPのオンプレミスERPをクラウドへ移行するための包括的サービスプログラムだ。SAP S/4HANAへのアップグレードから運用保守まで一括で請け負うモデルとして多くの大企業に採用されており、今回の発表でそのAzure採用比率が60%を超えたことが確認された。
この数字は単なるシェアではない。ERPのコア部分がAzure上に乗っているということは、Microsoft EntraによるID管理、Microsoft Sentinelによるセキュリティ監視、Teamsとの業務フロー連携など、Microsoft 365エコシステム全体との統合が自然な形で可能になることを意味する。SAPを使い続けながらMicrosoftスタックで全体最適を図るという設計が、エンタープライズ市場で着実に支持を集めている。
SAP Datasphere MirroringとMicrosoft Fabric統合がGA
今回の発表の中でエンジニアに最も影響が大きいのが、SAP Datasphere MirroringとMicrosoft Fabricの統合のGA化だ。
SAP Datasphere Mirroringを使うと、SAP S/4HANA上のビジネスデータをリアルタイムに近い形でFabricへ複製できる。これまでSAPデータをBIやAI分析に活用するには、ETL処理や複雑なデータパイプラインの構築が必要で、データエンジニアの工数が相当かかっていた。GAによってこのフローが標準化・安定化することで、Power BIやFabric上のAI機能とSAPの業務データをより簡単に接続できるようになる。
具体的には以下のようなユースケースが現実的になる:
- SAP S/4HANAの在庫・受注データをFabricへ連携し、需要予測モデルをAzure AI上で動かす
- SAPの財務データとSalesforceや外部データを同一のFabricワークスペースで横断分析する
- Power BIレポートをSAPデータの最新状態で自動更新し、経営ダッシュボードを維持する
SAP Data Sovereignty CloudをAzure Governmentで提供
もう一つの注目発表が、SAP Data Sovereignty CloudをAzure Government環境で提供するという内容だ。官公庁・防衛・金融など高度なデータ主権要件を持つ業種・業態向けに、SAPワークロードを物理的・論理的に分離されたAzure Government環境で稼働させることが可能になる。
日本では直接Azure Governmentリージョンの利用は限定的だが、このアーキテクチャ設計の方向性は参考になる。日本の省庁や重要インフラを担う企業が「SAP × クラウド」を検討する際のリファレンスモデルになり得る。
実務への影響:日本のSAPユーザー企業が注目すべき点
データ活用の民主化が加速する
Fabric統合のGAは、SAPデータ活用のハードルを大きく下げる。これまでSAPとBIをつなぐには専門的なSAP BASIS知識やBW/BEX設計スキルが必要だったが、Mirroring経由であればFabricのUIから設定できるケースが増える。データエンジニアやBI開発者が独立して動けるようになることで、SAPチームの負荷分散にもつながる。
SAPのEOL(2027年問題)対応との組み合わせ
SAP ECC 6.0の標準保守期限(2027年)が迫る中、RISE with SAPへの移行を検討している企業は多い。その際の移行先としてAzureを選択すると、上述のFabric統合やEntraとのID連携がすぐに活用できる状態になる。移行と同時にデータ活用基盤を刷新できるのは大きなメリットだ。
Microsoft Entraによる統合ID管理
RISE with SAPをAzureで動かすと、Microsoft Entra IDによるシングルサインオン・条件付きアクセス・Just-In-Timeアクセス管理がSAPにも適用できる。SAPのロール・認可管理は複雑で運用負荷が高い傾向があるが、Entraと連携させることでガバナンスの一元化が図れる。
筆者の見解
RISE with SAPのAzure採用率60%超という数字は、エンタープライズクラウドにおけるAzureの地盤固めが着実に進んでいることを示している。SAPというERP市場の絶対王者が、移行先の6割以上をAzureに向けているという事実は重い。
特にFabric統合のGA化は評価したい。部分最適の積み重ねを嫌う立場からすると、SAP側のデータ基盤とMicrosoft側のデータ分析基盤が疎結合ではなくネイティブに統合されるこの方向性は「正しい設計」だと思う。企業がSAPを選んだまま、データ活用の最前線に立てる構成が整ってきた。
Azureのプラットフォームとしての信頼性、EntraによるID管理の堅牢さ、そしてFabricによるデータ統合。この3つが揃うと、SAPユーザー企業は追加の複雑さなしに現代的なデータ駆動経営に踏み出せる。MicrosoftにはAIエージェントとSAP業務プロセスをどこまで深く統合できるかという点で、さらなる具体的な発表を期待したい。エンタープライズの現場で使われてナンボの世界で、Azureはその力を持っている。
出典: この記事は SAP on Azure Product Announcements Summary – SAP Sapphire 2026 の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。