PC Watchは2026年5月19日、徳島大学と岐阜大学による研究グループが560GHz帯において単一チャネル112Gbpsの無線伝送実証に成功したと報じた(記事執筆:宇都宮 充氏)。次世代「6G」通信の実現に向けた重要な技術的マイルストーンとして、通信・半導体分野で広く注目されている。

なぜこの研究が注目されるのか

現行の5Gが最大数十Gbpsの通信速度を目指す中、6Gでは300GHz以上の「テラヘルツ波」を活用し桁違いの高速・大容量通信を実現する構想が描かれている。しかし350GHz超の領域には大きな技術的障壁があった。

従来の電子技術による信号生成では、周波数が上がるにつれて出力が低下し、位相雑音(信号の揺らぎ)が増大する。安定かつ高品質な信号生成が難しく、高次変調による高速データ伝送との両立は特に困難とされてきた。

「フォトニック6G」——光技術による突破口

研究グループが採用したのは「マイクロ光コム駆動型テラヘルツ通信(Photonic 6G)」と呼ばれるアプローチだ。光ファイバー接続型の微小光共振器を用いたマイクロ光コムデバイスを独自開発し、高い周波数安定性と低位相雑音特性を両立させた。

PC Watchの報道によれば、光ファイバーを共振器に直接接合することで精密な光学調整を不要にし、小型設計と長時間安定動作を同時に実現している点が従来研究との大きな差別化点だという。

実証された通信性能

実験では560GHzの多値変調テラヘルツ波を生成・無線搬送・受信復調するシステムを構築。以下の結果を達成した。

  • QPSK変調: 84Gbps
  • 16QAM変調: 112Gbps

研究グループは、420GHz以上の周波数帯において世界で初めて100Gbps級の無線通信を実証した成果だと説明している。現行の家庭用光回線(概ね1Gbps)と比較しても、その速度差は歴然だ。

日本市場・産業への注目点

6Gの商用展開は2030年代前半が目標とされており、日本政府・総務省も国家的アジェンダとして研究開発を推進している。今回の成果は、日本の大学発基礎研究が国際的な6G開発競争で確かな存在感を示すものだ。

実用化に向けては以下の課題が残る。

  • テラヘルツ波は直進性が強く、雨や建物等の障害物に弱い
  • 長距離伝送が難しく、密なアンテナ配置が必要になる見込み
  • 送受信デバイスのさらなる小型・低コスト化

短期的には「6G基地局間バックホール回線」や「データセンター内超高速無線接続」など、固定点間の大容量通信から実用化が始まると予想される。エンジニアの観点では、光技術と無線技術の融合という設計アプローチそのものが、次世代デバイス・システム設計の参考になるだろう。

筆者の見解

6Gをめぐる国際競争は米国・中国・欧州が熾烈な開発競争を繰り広げているが、今回の成果は日本の光技術・通信技術の底力を改めて示した。「電子技術の限界を光技術で突破する」という発想は設計思想として非常に筋が良く、今後の展開が楽しみだ。

個人的に興味深いのは、通信インフラとAI活用の将来的な交点だ。AIエージェントが自律的に動作し、分散した仕組みを回し続けるには、それを支えるネットワーク基盤のボトルネック解消が不可欠になる。112Gbpsという数値は単なるスペック競争ではなく、10年後のインフラ設計の根幹に関わる話として受け取るべきだろう。

地味に見えるかもしれない基礎研究の積み重ねが、最終的に産業競争力の源泉になる。今回の成果がそのひとつとして着実に積み重なっていくことを期待したい。


出典: この記事は 560GHz帯で112Gbpsの超高速無線通信、岐阜大らが実証。6Gなどの基盤に の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。