元Microsoft副社長のMat Velloso氏が、Microsoft 365の4億5,000万ユーザーのうちCopilotの有料シートに移行したのはわずか約1,500万人(採用率3.3%)にとどまると指摘し、Microsoftがインターネットやモバイルに続くAIの波をまた逃しつつあると警鐘を鳴らした。同時期、Windows 11でもCopilotの縮小が進んでいる。

Velloso氏とは何者か

Mat Velloso氏は単なる元社員ではない。Microsoftで12年以上勤務し、WindowsのAIイノベーションを担当するパートナーディレクターとして活躍、4年間はSatya Nadella CEOのテクニカルアドバイザーを務めた人物だ。その後、Google DeepMindでGemini APIおよびGoogle AI Studioを担当し、現在はMetaのSuperintelligence LabsでVP of Productを務めている。

Microsoft・Google・Metaの三社でAI開発の最前線を見てきた立場からの発言だけに、業界内で大きな注目を集めている。

数字が語る厳しい現実

Velloso氏が示したデータは以下の通りだ。

  • Copilot有料採用率:3.3% — Microsoft 365の4億5,000万ユーザーのうち、Copilotの有料シートに移行したのは約1,500万人のみ
  • Bing:検索シェアほぼゼロ — 巨額投資にもかかわらず、Googleからのシェアはほぼゼロのまま
  • GitHub SLA:90%を下回る — AIコーディング革命の中心地であるはずのGitHubの信頼性が低下
  • NPU搭載PC:ユースケースが存在しない — OEMはNPU対応PCへ大規模投資したが、WindowsおよびOffice上で活用できるキラーユースケースが生まれなかった

特にNPUをめぐる状況は深刻だ。「NPUを搭載したのに使える機能が何一つない」という状態は、デバイスメーカーとエコシステム全体への信頼を揺るがす。Velloso氏は「OEMが投資したのに、誰も気にしていない」と端的に表現している。

Copilotの縮小とDevDiv幹部の退職

Windows 11ではCopilotをタスクバーに常駐させる形で普及を図ってきたMicrosoftだが、その方針が転換されつつある。タスクバーへの統合が縮小される動きは、ユーザーから「押しつけ」と受け取られた反省の表れとも見られる。

これと時期を同じくして、34年間Microsoftに在籍しDeveloper Division(DevDiv)を牽引してきたJulia Liuson氏の退職も発表された。DevDivはGitHub・Visual Studio・Azure DevToolsを統括する中核部門であり、このタイミングでの離脱は単なる偶然ではないとも見られている。

Velloso氏は一連の状況を総括し、Microsoftには「ファクトリーリセット」が必要だと述べた。

日本のIT現場への影響

Microsoft 365管理者・IT部門

3.3%という採用率は、日本企業のIT部門にとっても身に覚えのある数字かもしれない。Copilotライセンスを購入したものの活用が進んでいない組織は少なくないはずだ。

明日からできること:

  • Microsoft 365 Admin Centerで組織内Copilotのアクティブ利用率を確認する
  • 利用されていない理由をユーザーにヒアリングし、具体的な業務ユースケースを設定する
  • 「とりあえず導入」の状態から「業務フローへの統合」へ移行する計画を立てる

AI PC・NPU搭載端末の導入を検討中の組織

NPUの恩恵を受けるには、対応したソフトウェアとユースケースが不可欠だ。現時点で「NPU搭載」を導入の決め手にするのは時期尚早である可能性が高い。Windowsのロードマップとユースケースの成熟を見極めながら判断することを推奨する。

開発者・GitHub利用者

GitHub SLAの低下は、CIパイプラインや開発フローに直接影響しうる。ミッションクリティカルなワークフローではフェイルオーバー策や代替手段の検討も現実的な選択肢として視野に入れておきたい。

筆者の見解

Copilotが登場したとき、多くのMicrosoft利用者・支持者がワクワクしたはずだ。AzureのOpenAI統合をはじめ、Microsoftはプラットフォームとして本物の強さを示してきた。問題は、その強さがエンドユーザー体験にまだ転換できていないことだ。

3.3%という採用率は、「使いたくなる体験が設計できていない」ことをシンプルに示している。タスクバーに置くだけでは使われない。「これがないと仕事にならない」と感じさせる体験を作れてこそ、プラットフォームとしての価値になる。

「インターネット、モバイルに続く波を逃した」という表現は厳しいが、Microsoftにはまだ反転の余地がある。4億5,000万のM365ユーザーベース、Azureのインフラ、GitHubの開発者コミュニティ——これだけの資産を持つ企業が本気でユーザー体験の設計に向き合えば、状況は変わりうる。

「ファクトリーリセット」という言葉の本質は、「ユーザーが実際に使いたくなるものを作れ」というシンプルなメッセージだ。Microsoftにはそれをやり遂げる実力がある。WinHECの再開やユーザーフィードバック重視への転換など、変化の兆しは確かにある。その動きが本物かどうか、これから数四半期の製品とデータが答えを出すだろう。


出典: この記事は Former Microsoft VP says Microsoft missed the AI wave like the internet and mobile, as Copilot scales back in Windows 11 の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。