PC Watchのコラム「福田昭のセミコン業界最前線」で、福田昭氏が現地ベルギー・ルーベンから「2026 IEEE 18th International Memory Workshop(IMW 2026)」の詳細レポートを届けた。今回の学会で浮き彫りになったのは、単純な積層技術だけでは今後のDRAMやNANDの大容量化が困難という、業界に共通する認識だ。

なぜ今、メモリ技術が注目されるのか

AIの急速な普及が、メモリサブシステムへの要求を根本から塗り替えつつある。PC Watchの福田氏が伝えるMicron TechnologyのNirmal Ramaswamy氏の基調講演によると、AIプロセッサの性能は2年で3倍のペースで向上しているのに対し、メモリアクセスの帯域幅は2年で2倍のペースでしか伸びていない。この「メモリギャップ」は特にGPUで深刻となっており、AIシステム全体の性能を制限する「メモリボトルネック」として業界全体の共通課題となっている。

IMW 2026のポイント:過去最多の投稿、次世代メモリが最大分野に

福田氏のレポートによると、今回の投稿論文数は127件と過去最多を記録した(前年71件から約79%増)。口頭講演の採択率はわずか17%と過去最低水準で、研究競争の激化が際立っている。

分野別では「次世代メモリ(強誘電体メモリ・抵抗変化メモリ・磁気メモリ等)」が24%で最大分野となり前年比3ポイント上昇。続いて「フラッシュメモリ」が20%、「DRAM」が18%を占める。地域別ではアジアが58%でトップ、欧州が30%と続き、米国は11%にとどまった。

現状の打開策HBMと、その先にある3D DRAM

Micronの講演が示す現状の打開策がHBM(High Bandwidth Memory)だ。きわめて高い帯域幅を実現するHBMは、ハイエンドAIシステムにおけるGPU向け主記憶として不可欠な存在となっている。

より長期的な解決策として研究が加速しているのが3次元DRAM(3D DRAM)技術だ。1T1C(1トランジスタ+1キャパシタ)メモリセルを垂直方向に積み重ねることで記憶密度を高める方式で、福田氏のレポートによるとMicronはシリコン(Si)とシリコンゲルマニウム(SiGe)を交互に重ねた超格子構造の実現可能性を示した。ただし3D DRAMの実現には、メモリセルアレイと周辺回路を異なるウェハに形成して接合するという複雑なプロセスが不可欠であり、量産化への道のりはまだ遠い。

NANDフラッシュ側では、Samsung ElectronicsのChris Kang氏が技術展望を講演した。こちらも単純な積層では容量拡大に限界が生じているという認識が示されており、次世代へのアーキテクチャ刷新が避けられない段階に来ている。

なお、中国のCXMT(ChangXin Memory Technologies)のRobert Liu氏がDRAM技術展望の基調講演に登壇した点も注目される。Micron・Samsungと並ぶ場での発表は、地政学的な観点からも意味を持つ。

日本市場での注目点

HBMはすでにNVIDIAのH100・H200・B200系GPUに搭載されており、国内クラウドサービスやAI基盤の整備コストに直結する。AIサーバーの調達・設計において、メモリ帯域幅の制約を正確に把握した上での選定が求められる時代になっている。

日本の半導体産業の観点では、Rapidusをはじめとするプレイヤーがこのメモリ技術トレンドの文脈でどのポジションを狙うかが問われる。IMW 2026のような国際学会で示される技術ロードマップは、今後数年の投資判断や人材育成の方向性に直結する情報だ。

筆者の見解

AIエージェントが自律的にタスクをこなし続けるためには、膨大なデータを高速に読み書きするメモリ性能が欠かせない。「メモリギャップ」という表現が業界の共通語として定着しつつある現状は、AIシステムの性能向上がすでにプロセッサの問題ではなくメモリの問題になっていることを端的に示している。

IMW 2026への投稿論文が過去最多となった事実は、業界全体がこの問題の深刻さを直視し始めた証左だろう。3D DRAMや次世代不揮発性メモリへの研究投資が加速する一方、現実のAIシステムを今支えているのはHBMという構図だ。HBMの動向と3D DRAMの実用化タイムラインは、今後のAIインフラ計画において必ず押さえておくべきポイントといえる。

日本のエンジニア・企業にとって、メモリボトルネックへの理解はもはや「半導体専門家の話」では済まない。AIシステムの選定・コスト設計・将来ロードマップに直接響いてくる話として、業種を問わず注目しておく価値がある。


出典: この記事は 【福田昭のセミコン業界最前線】単純な積層だけでは、もうDRAMやNANDの容量が拡大しない。次世代メモリの課題 の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。