Menlo Venturesのパートナー、Deedy Das氏がSNSに投稿した長文が、AI業界の"本音"をあぶり出した。AIブームの恩恵を受けているのはOpenAI・Anthropic・Nvidia・xAIなどの一部企業に在籍する約1万人に過ぎず、それ以外の大多数のエンジニアはスキルの陳腐化と雇用不安に直面しているという告発だ。

OpenAI・Anthropicの社員だけが笑う「1万人の富」

Das氏の試算によれば、過去5年間でOpenAI、Anthropic、xAI、Nvidia、Metaなどの中核企業に在籍した創業者・従業員のうち、約1万人が「引退できるレベルの富(2,000万ドル以上)」を手にした。

一方、残りのソフトウェアエンジニアたちの状況は対照的だ。「年収500万円以上の安定した職に就いていても、そのレベルの富には一生届かないかもしれない」という焦燥感が業界を覆い、レイオフは拡大中、自分のスキルが「もう必要とされない」という感覚に苦しむエンジニアが増えている。Das氏はサンフランシスコの雰囲気を「かなり騒然としている」と表現し、「こんなに格差の差が大きい状況は見たことがない」と述べた。

「当たりくじ」と「失業の刃」が同じ技術という皮肉

この投稿に対してX(旧Twitter)では様々な反応があった。起業家のDeva Hazarika氏は「この投稿に登場するほとんどの人は信じられないほど恵まれており、幸せになる選択をすれば良いだけだ」と批判的な見方を示した。

一方、別のユーザーが指摘した点が核心を突いている——「同じ技術が、当たりくじであると同時に、保険(フォールバック)を食い尽くしているのは、かなり斬新でもあり、ひどくもある」。

AIはエンジニアを豊かにもするが、その同じAIがエンジニアの仕事を奪っていく。この二面性が、AIゴールドラッシュの本質的な構造的矛盾だ。

なぜこれが重要か——日本のIT現場への影響

日本のIT業界でも同様の動きは観察されている。大手SIerや受託開発会社では「AIが仕事を奪う」という議論が活発化し、一方でAI関連スキルを持つエンジニアの年収は急上昇している。

ただし、日本の場合はサンフランシスコとは異なる問題がある。新卒一括採用・年功序列の構造が残る大企業では、AIシフトの波に乗れず「変化に気づかないまま」時間を消費している組織が多い。個人レベルでも「AIを使いこなして価値を出す人」と「情報収集だけして行動しない人」の二極化が静かに進んでいる。

実務への影響——エンジニアが今すぐ取り組むべきこと

仕組みを作れる側に立つ AIを使うユーザーではなく、AIを組み込んだ仕組みを設計・実装できるエンジニアになることが生き残りの鍵だ。AIエージェント、自動化パイプライン、AIを活用したワークフロー設計のスキルを身につけることが優先課題になる。

情報収集より実践を選ぶ 「AIの最新情報を追いかける」のではなく、実際に手を動かして使いながら成果を出す経験を積む方が圧倒的に価値がある。毎日の業務にAIを組み込み、具体的な実績を積み上げることに集中すべきだ。

「安定した職」という幻想を見直す Das氏の指摘の通り、安定した職についていることと、変化に対応できることは別問題だ。自分のスキルが3年後も通用するかを真剣に問い直す時期に来ている。

筆者の見解

Das氏の投稿は、AI業界の内部から出てきた正直な告白として受け止めるべきだ。サンフランシスコのベンチャー界隈の話として片付けるのはもったいない。日本のエンジニアも、この構造を自分事として捉える必要がある。

最も本質的な指摘は「AIは当たりくじであると同時に、フォールバックを食い尽くす」という部分だ。技術変革の二面性を正確に表現しており、楽観でも悲観でもなく現実を直視している。

ただ、「乗り遅れた」と嘆いていても何も変わらない。ゴールドラッシュ時代、金を掘り当てた人よりも、スコップやジーンズを売った人の方が安定して稼いだというのは有名な話だ。AI時代も同じ構造が当てはまる——AIモデルそのものを作る必要はない。AIを活用して価値ある仕組みを作れる人材になることが、より現実的で再現性の高い戦略だ。

日本のIT業界には、この変化に真剣に向き合わないまま旧来の採用・育成・業務のやり方を続けている組織がまだ多い。変革の波は、気づいていない人を特に容赦なく飲み込む。まず自分の手でAIを動かすことを今日から始めてほしい。


出典: この記事は The haves and have nots of the AI gold rush の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。