個人開発者のSami Smithが公開したWebアプリ「explorer.samismith.com」が、Windows XPのWindowsエクスプローラーを忠実に再現したUIでWikipediaの全カテゴリをフォルダ構造として探索できる体験を提供し、Hacker Newsで506点・113コメントという高い反響を集めている。

Windows XPのあのUIでWikipediaを「ファイル探索」

explorer.samismith.comは、スタートボタン・タスクバー・エクスプローラーウィンドウなど、Windows XP時代のデスクトップUIをWebブラウザ上に再現したWebアプリだ。Wikipediaのカテゴリがフォルダとして表示され、ダブルクリックでサブカテゴリや記事を掘り下げていける。記事はノートパッド風ウィンドウで開き、カテゴリが割り当てられていない約100ページを除いたほぼ全記事にアクセス可能という。

通常のWikipedia検索UIと最大の違いは、ツリー構造を「歩いて」情報を発見できる点だ。検索ボックスに言葉を入れるのではなく、大カテゴリ→サブカテゴリとフォルダを開き続けることで、目的の情報に至るまでの「道中」に思わぬ発見が生まれやすい。

3つの主要機能

Wikipedia

Wikipediaの全カテゴリをフォルダとして探索できるメイン機能。「Science」「Technology」「History」などの大分類から始まり、階層をたどることで世界規模の知識ツリーを直感的にナビゲートできる。記事のフォーマットもXP風のウィンドウで表示されるため、一貫したUIで読み進められる。

Media(Wikimediaコモンズ)

Wikimediaコモンズの画像カテゴリも同様のフォルダ構造で探索できる。任意の画像を右クリックすると「デスクトップの背景に設定」というXPらしい演出も用意されており、細部のこだわりが光る。

Geofile Explorer(開発中)

地球全体をフォルダとして探索できるという構想段階のプロジェクトも搭載されている。特定の地点にドラッグ&ドロップで画像をアップロードしたり、右クリックでテキストノートを付けたりと、地理情報を「ファイル」として扱うコンセプトが面白い。

なぜこれだけ話題になったのか

Hacker Newsでの高評価は、単なる「懐かしいUIの再現」への票ではないだろう。Wikipediaは膨大な情報を持ちながら、現行UIではカテゴリ間の構造関係を視覚的に把握しにくいという課題がある。フォルダ型ツリーでナビゲートすることで「知らなかった知識との偶発的な出会い」=セレンディピティが生まれやすくなる、という体験的な優位性が評価されたとみている。

またXP.cssなどOSSライブラリの整備により、Windows XP風UIのWebでの再現難易度が大幅に下がっていることも、こうしたプロジェクトが増えている背景にある。

実務への影響

このプロジェクトから得られる示唆は「懐かしいから面白い」だけにとどまらない。

  • 情報アーキテクチャの参考に: カテゴリ=フォルダというメタファーは、社内ナレッジベースや文書管理システムのUX設計に応用できる。フラットな検索UIが情報探索の唯一解ではない
  • ツリー型ナビゲーションの再評価: 検索一辺倒のUIが当たり前の時代に、階層ツリーが情報構造の可視化に有効なユースケースは確実に存在する
  • フロントエンドの習作として: XP.cssやoscsss等を使ったレトロUIの実装は、UIコンポーネント設計の理解を深める題材としても価値がある
  • 個人プロジェクトの可能性: バックエンドはWikipedia/Wikimediaの公開APIをほぼそのまま活用しており、アイデアとUI設計力があれば少ないリソースで大きな反響を生めることの証明でもある

筆者の見解

Windowsそのものの細かいアップデートを逐一追うことに以前ほど意義を感じなくなっている。ただこのプロジェクトには、Windows UIとは別の文脈で関心を持った。

Windows XPのUIは、あの時代のPCユーザーにとって「コンピュータとはこういうものだ」という認識を作り上げた体験の集積だ。そのUI言語を使って現代の情報インフラであるWikipediaを再包装することで、情報探索の体験がまったく異なるものになる。これは単なる懐古趣味ではなく、「UIがユーザーの認知をどう変えるか」という問いへの実験的な回答として読めると思う。

情報を「検索して拾う」のではなく「歩いて発見する」という探索体験を、こういった個人プロジェクトが静かに再定義しようとしている点は興味深い。技術スタックの高度さよりも「誰もまだ形にしていなかった体験」を具現化する発想力と実行力が評価される時代になっていることを、このプロジェクトの反響が改めて示している。

エンジニアとして「便利なツールを作る」ことと「体験そのものを設計する」ことは別の能力だ。情報収集に追われるより、こうした実験的プロジェクトを自分で手を動かして作る時間を確保する方が、長期的に得られるものは大きいと感じる。


出典: この記事は Explore Wikipedia Like a Windows XP Desktop の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。